陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

NHKドラマスペシャル「白洲次郎」

2009-04-10 | テレビドラマ・アニメ

白洲次郎という名を、じつのところ、あの白洲正子の夫という立場でしか知らない私でしたが、こんなに活躍された方だったんですね。というのがわかったのは、三月に放映されたNHKのスペシャルドラマを拝見してから。

若い頃は手のつけられない破天荒。英語が得意で日本の枠におさまりきれずに、ケンブリッジ大学に留学。実家の破産を経験するも、その後は新聞記者となり、近衛文磨のブレーンとして、反戦派の吉田茂への橋渡し役をおこなう。

戦時中は食糧難を予測し地方に疎開して、終戦を待つ。日本が占領された四十五年以後は、ふたたび重用され、終戦連絡中央事務局参与としてGHQと真っ向からやりあう。
二週連続のドラマは、マッカーサーを怒鳴りつけたクリスマスのエピソードで終わっていました。八月に第三部が放映される予定だそうですが、次回は観ないかも。

第一話を観てかなり期待した第二回目は、いささか残念な印象。
というのも、戦時中に疎開した時代、お世話になった農家の跡取り息子が徴兵にとられたのに、自分に赤紙がまわってきたときは人脈を利用して拒否。
このシーン、家族を戦争でなくされた視聴者の憤懣やる方なし、だったのではないでしょうかね。

もちろん、白洲がいなければ、GHQと対等にわたりあってあの平和憲法ももぎ取れなかったかもしれないけれど。だから、彼は無駄死にしてはいけなかったというべきだけれど。では、あの当時、政治家に面識があって生き延びた人間はいたのではないか。苦しんだのは庶民だけで、上層階級は相も変わらず平和な暮らしをつづけていたのではないか。金持ちは道楽をしつづけていけたのではないか。そんな疑問が頭をもたげてしまう。

ちなみに、この場面では、正子があの青山二郎とのつながりを結ばせることになる音楽評論家の河上徹太郎も登場。彼がなんとも、ものぐさ太郎みたいな御仁であって。郊外とはいえ、おなじ東京ではひどい空襲もあったというに、正子たちはのんびり田園暮らしの牧歌的な雰囲気がただよっていて緊張感ゼロ。

次郎と正子との夫婦愛に主軸がおかれているようなのですが、この正子も畑仕事をしなかったり、育児を放棄して趣味にうつつを抜かしていたり、と現代の女性像をさきどりしたようなお方。夫婦愛というよりも、政界で活躍する夫に田舎でくすぶっている妻がつまらない対抗心を燃やしているという感じなので、感激というものが湧かない。
次郎は、ことあるごとに、プリンシプル(原則)を口にするけれど、では彼の望む理想が具体的になんなのかが皆目わからない。しかも、英国紳士たちのまえで披露した演説のいちぶは、じつは実家の使用人の受け売り言葉だったり。

伊勢谷友介の次郎、中谷美紀の正子、ほかキャスティングは良かったのに、筋書きがいまいち。実の娘の手記を元にしているせいか、ていのいい家族ドラマという気もしますね。

ここ、さいきん、よく戦前戦後のドラマをよく見かけますが、こういう実在の人物の人となりがまだ記憶に残る浅い時代を扱うのはむずかしいだろうと思われるのです。
史実にもとづいた中途半端なフィクションにするくらいなら、いっそ、私情をまじえないドキュメンタリーのほうがいいのではないかしら。あるいは、まったく創作者のほしいままにできる架空の人物で、戦争の傲慢、悲哀を色濃く掘り出すような脚本にしたほうが、まだよかったり。故人の名誉をまもって冒険できないドラマは、ちょっとねぇ。

ちなみに私が面白かった戦争ドラマは、TBSで放映されていた『シリーズ激動の昭和-3月10日東京大空襲-語られなかった33枚の真実』
中村トオルが主演だったはずですが、原田泰造がけっこういい味出してました。実話をもとにしたものですが、戦争の惨禍をよく伝えています。

昭和の戦争というのは、政治家や実業家の立場からではなく、被害をうけた市民の目線からつくったほうが訴えるのではないでしょうか。どんなに美化されても、戦争を肌で知る世代にとってうさんくささはすぐに見破られてしまうのですし。



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