芸術の秋、各地ではさまざまな文化イベントが目白押し。
コミケのようなアニメファンたちの集いや制作者との交流のみならず、マチ★アソビなど地方の観光や商店街の再生、飲食店への客寄せに貢献している一般市民対象の、わかりやすい行事も恒例化してきました。人口減少がつづく田舎では、アニメ文化は若者への呼び水になっているようです。
日本国内でアニメ関係のモニュメント設置が珍しくない時代です。
お台場でファーストガンダム機体ができたり、鉄人28号機が神戸にあったり。進撃の巨人のリヴァイ兵長の銅像があったり。かつてこういうモニュメントは、ディズニーランドやUSJみたいな非日常の遊戯の場に置かれたものでしたが…。さきがけは、水木しげるのキャラ銅像が街道にできたあたりなのか。
このムーブメント、国内のみならず海外にも。なんと中東のある国では、UFOロボグレンダイザーの巨大モニュメントが設置されたらしい。イスラム圏で偶像崇拝禁止じゃなかったのかと思うのですが、もはや日本のアニメマンガは世界に愛される美しいイコン。
つい最近も、なんと、山口県宇部市の常盤公園に、新世紀エヴァンゲリオンのロンギヌスの槍が出現したという報道が!
参照記事:「全長7mのロンギヌスの槍が突き刺さった宇部市のときわ公園に行ってきた」(Gigazine 2023年10月06日)
ロンギヌスの槍とは、新約聖書におけるイエス・キリストを突き刺した槍。
ウェブ上の情報源によれば。「新世紀エヴァンゲリオンに登場するキーアイテム。
形状は巨大な螺旋状の槍でその先端は二股に分かれているが、投擲されるとねじれて細長い槍となって対象を貫く。ATフィールドを無効化し、破壊することもできるので、EVAや使徒に投げるだけで倒せる」とあります。
ほほう、とすれば! このロンギヌスの槍が日本に刺さっていれば、災厄からの護符代わりにもなる…! ということですね。 日本神話上、日本の国土は神様が矛を回してつくったらしいけれども。小説版やら、劇場版やら、シリーズが派生分化するにしたがって、いいろいろ設定が異なっているようですが。聖書をベースに置いたという点では、歴史マニアや哲学フリークの興味をひく素材。東浩紀などの研究者たちがこぞってエヴァ論評をくりひろげる理由もわからんでもないですね。
なんと2015年には、ロンギヌスの槍を月面に刺すプロジェクトも発足。
宇宙飛行士の山崎直子さんも呼びかけ人となってクラウドファンディンが立ち上がったという記録もあります。目標金額の1億円に到達せずに返金されたらしいですが…。
この宇部市、なんと庵野秀明監督の生誕地だそうです。
広島や小倉と並び、瀬戸内海に面した山陽の工業コンビナートのうちの、炭鉱の町として明治時代から栄えた工業都市。制作したのは地元の企業・株式会社宇部スチール。その若手社員たちが企画立案し、宇部市が協力して実現した夢のプロジェクト。地元の鉄スクラップを利用して制作され、7メートルに及ぶ巨大なモニュメント、繊細な螺旋模様を描いて、フォークのような細めの先端が斜めに地面と接触。特製の鋳型で鉄を流し込み成型、倒壊しないような設置に、高度な技術力をうかがわせるものです(メイキング映像は宇部スチールの公式ユーチューブチャンネル)。しかも、これ、恒久展示なんだそうで。日本のモノづくり産業の高い技術がアニメで知られる喜ばしい事例ですね。
監督の出身地らしくて、「まちじゅうエヴァンゲリオン第3弾」という町おこしイベントも絶賛開催中。エヴァの機体、わりと他の工場でも制作されたことがあるらしく。ひょっとしたら、社員さんの中にファンが多いのかもしれませんね。私も地元で、道路工事の注意書き看板が、あきらかにエヴァのあの独特の明朝体を意識したデザインのものを見かけて、ほくそ笑んだことがありましたっけ。
私自身はエヴァに格別思い入れもなくて、話題になった完結編の劇場版も、そもそもテレビ放映のシリーズもほとんど観てない人間なのですが、これはじつに興味深い現象です。
かつて学生時代に、あちこちの野外彫刻展めぐりをしていた私は、もちろんこの宇部市の常盤公園にも足を運びました。
湖をかこんだなだらかな丘陵にそこかしこモニュメントが散らばっているのですが、箱根の彫刻公園のものと比べると個々の作品はあまり印象に残らず。船員向けのかんぽの宿みたいなホテルに泊まらせてもらって、近くの古書店でカール・セーガンの『COSMOS』を求めて読んだり。その宿主のおじさんの親切で、駅まで車で送ってもらったことがあります。今でもあのホテル、あるのかしら。
とても懐かしい想い出探しができたこのニュース。
ふと、昨今の純粋なまじめなファインアートめいた美術家たちの造形物と比べたら…と、そこたしの野外彫刻展と引き比べて、さみしくも感じたのでありました。私の地元でも展覧会のお知らせが来ますけども、年々展示物がショボくて失望しています。学芸会じみていて、何の面白みもない。
やはり、こういった文化イベントをひっぱるのも、クリエイター乞食(働かないで創作活動で養われたいキリギリス願望のある人、プロフェッショナルは除く)、公金だのみの芸術家肌の個々人や文化団体じゃなくて。実際に制作にかかるお金を計算できている会社組織なんだなあと思うわけです。
なぜって、彫刻家のモニュメントって、そのミニチュア模型のデザインを頭の中で考えただけの人の名前だけがプレートで飾られていて。命懸けでその金属を加工したり設置したりしてくれた職人肌の技術者たちの苦労を、鑑賞者は知ることができないからです。で、環境問題だとか、社会的なテーマだとかとってつけたようなコンセプトを盛り込んでくるわけですが、ジャンク品もあって、素人だと、そんなの読み解けるわけがない。お偉いアーティストのセンセイの作品だからとなんでもありがたがっちゃう。作品のクオリティなんて誰も本気で考えてない、水物商売ですよね、アート産業なんてものは。
だったらば、こういう若手技術者を会社がバックアップして、ヲタク人気のある造形物を作ってみせた方がよほどいいわけですよね。下手な流木アートだとか廃材をくみあわせたチープで不気味なクリーチャーを飾られるよりは。地元の産業にも貢献していて、労働者の誇りにもなるからです。
そもそも運慶快慶の金剛力士像にしたって、工房制作で弟子たちを使った共同作品なのです。
巨大ロボットは仏像や神像と同じで裸身でもいやらしさがないために、公共空間に設置されやすく、かつ、世界を変えた力の象徴でもあり子どもたちにヒロイズムの夢を与えるもの。今後とも、こうしたサブカルとして共有されているイメージが立体化する事例は増えていくのではないでしょうかね。
(2023/10/09)
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