陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

医薬品のネット販売規制 その5

2009-06-01 | 医療・健康・食品衛生・福祉

以前からお伝えしている医薬品のネット販売規制の話題。拙ブログで最初にお伝えしたのは一月だったが、ふるくはネット上で昨年の秋あたりから俎上にのぼってはいた。それからほぼ半年近く。派遣切りやら、定額給付金やら、北朝鮮のミサイル発射やら、民主党の小沢と西松建設献金疑惑(代表を辞任して証人喚問を逃れただけ。議員バッジは外さない)やら、はては新型インフルエンザやら。とかく騒がしい世上の揺れに埋もれた感のあるこの話題だったが、とうとう本日、平成21年6月1日付けで、改正薬事法が施行された。

改正薬事法:大衆薬市場「大競争時代」に…1日から施行(毎日jp 09年5月31日)

つまり、本日から「登録販売者の有資格者」をおけば、24時間営業のコンビニや量販店でも大衆薬品(風邪薬や胃薬、包帯など)のほぼ九割がたが購入できる。ドラッグストアや薬局にとっては激しい競争にさらされるだろう。もはや医薬品は薬品業界の専売ではなくなった。
そしてまた、同時に薬剤師天国も終わりをむかえるだろう。

すでに、これをふまえて昨年からファミリーマートやセブン&アイが、薬剤師を配置して実験的に医薬品販売をはじめた。コンビニの経営者は登録販売者の資格取得にいそしむだろうし、店員として雇われるのにも有利かもしれない。調剤のできる薬剤師資格よりは劣るだろうが、しかし、薬剤師資格を取得した大学出でも調剤すらできない、という指摘もある。
とはいえ、各店舗に登録販売者を配備するというのはやはりなかなか難しくもあるようで、とくに独立採算の加盟店が急速にふみきれるわけではなさそう。したがって、ネット販売が禁止されたとしたら、たとえコンビニが乱立する地域であっても不便はまぬがれえない。

5月11日に厚生労働省が発表した、大衆薬(処方箋の必要のない一般用医薬品)のネット販売禁止に「二年間に限り」一部の例外をみとめる時限措置はおそらく、これをふまえたものだ。ネット業界側との折衝がつづいたが、双方とも譲らず、けっきょくは時間切れ。要するに経過に段階をもうけることで、反発をやわらげようとする考えだ。

薬ネット通販:条件付きで2年間容認 厚労省が改正案(毎日jp 09年5月12日)

この間にも日ごろ買い物でお世話になっている楽天からは、交渉の経過の仔細が報告されたので、リンクしておく。
ネット業界の言い分もわかるが、いささか誇張的な野次がめだつ(そしてすべてに目通しするのは困難)ので、ブログでは逐一引用しなかった。

医薬品のネット販売規制に関する参考資料

楽天側の主張によれば、22日に開かれた最後の厚労省検討会では、カメラ撮影の禁止や記者団の締め出しがおこなわれたとのこと。すなわち密室会議で事は進められていたので、国民の関心を多く惹くことはなかった。
また、それにさきがけ、21日には与野党の国会議員が呼びかけとなって、厚労省主導の省令でのみ規制する方針に疑義を呈する「過剰な医薬品通信販売規制を検証するシンポジウム」が開かれた。(YouTubeでの配信はこちら

25日には、憲法で保障された営業権の侵害であるとして、オンライン医薬品販売会社ケンコーコムが、国を相手取って訴訟を起こしている。
けっきょく国会での論議すらなく、省令公布は強行されてしまったが、とうめん、また紛糾は続くのか。それとも、厚労省が世論が下火になるのを持久戦で狙っているのか。

厚生労働省は現在、01年の統合での弊害で業務が増加したため、舛添大臣が分割案を示しているが、難航している模様。
年金・健康保険と雇用.労働は抱き合わせの社会問題であるから、分割するにしてもまた、困難を極めそうだ。ただでさえ、社保庁が年金改ざんで叩かれてるのに。

ところで、医薬品うんぬんから離れてマーケティング上の関心から今回の事態をながめるとおもしろいのは、ネット業界に食われていた小売業界が起死回生を目指す契機かもしれないということ。百貨店の衰退が叫ばれてひさしいが、かつてそのデパートでも買えなかったものが売られる時代。異業種参入で、百円ショップ以上にそこに行けばなんでもそろい、生活できる雑貨屋化がすすむのかもしれない。
それともうひとつは、楽天のこの記事に関する報告メールのように、マスメディアが伝えない報道の裏側の空気感をこうした営利企業が伝えてしまうことだ。
新聞業界の失墜が懸念される(「衰えたヘッドライン」)いっぽうで、広報を自分で出す強みをもったネット企業みずからが新聞にかわるチャンネルになっていくのではないか、という危惧すらいだく。すでにTV局を経由せずとも、企業や個人が動画サイトでCMを発表できる時代なのだからむべなるかな。



【関連記事】
「医薬品のネット販売規制」
「医薬品のネット販売規制 その 2」
「医薬品のネット販売規制 その3」
「医薬品のネット販売規制 その4」


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