学生時代、ひじょうに不便な地域に住んでいました。平日午後七時には閉店してしまう大学の生協ぐらいしか、歩いていける距離にお店はなかったのです。生協には、包帯とか湿布とか絆創膏ぐらいしかおいてありません。女子寮の共同部屋には、先輩の発案で救急箱がおかれておりました。
ある日曜日、いつも研究室に遊びにくる先輩が腹痛をうったえて、薬を借りにきました。あいにく、もちあわせがありませんでしたので、単車に乗ってふもとの街まで買いに行くことに。とうじはコンビニで医薬品など売られておらず、またネット販売もない時代でした。
現在の居住地には、自転車で半時間行ける範囲でも五軒ぐらいのおおきなドラッグストアがあります。コンビニだって、歩いて五分の距離にあります。よほど大きな家電などでないかぎり、買い物に不自由を感じることはなくなりました。本屋の店頭からすぐに消えてしまうマイナーな書籍は、ネットショッピングで買い求めることができます。amazonならレヴューで商品の傾向を確かめることができますし、e-honは送料無料で全国の提携書店に届けてもらえますから売上げのすくない小規模ブックストアには救いになるでしょう。
私がネットでよく買うのは書籍のほかに、おおっぴらに人前で買うのがはずかしいDVDやサプリメントなどです。
二十四時間、いつでも注文でき、宅配時間を指定できる。もしくはコンビニなど出先機関に預かってもらえる、ネット通販は利用しだしてみるとかなり便利です。コンビニ受け取りにすれば、送料無料のショップもあります。
ところが、こうしたネット販売の代引きサービスを規制する動きがあるのです。ご存じでしたか?
宅配業界がおこなう代金引き換えサービスが、ほんらいは銀行や郵政公社など金融機関に許される為替取引業務にあたるとして、厚生労働省が難色を示しはじめたのです。代引きサービスは、カード決済に二の足を踏む消費者にとってはとても便利な制度。
これを、政府が規制したらどうなるのでしょう?ヤマト運輸は、期末預かり残高の五〇パーセントを供託金として金融庁に預けないといけない。じつに二百五十億円ものお金を、代引きサービスの認可料として払わなくてはならなくなります。とすれば、その負担はとうぜん、われわれ利用者に回されるわけです。
先だって、楽天からのメールマガジンで知りましたが、政府が医薬品のネット通販規制をもりこんだ薬事法の改正を、今年の六月には成立させる模様。これに対し、楽天など大手ネットショッピングサイトはパブリックコメントを募ったり、メールで反対署名を集めて抗する構えです。
規制される医薬品は、とりたてて対面販売がかならずしも必要なほど、取り扱い危険なものではありません。ふつうにドラッグストアの店頭で買えるような風邪薬や、胃薬などです。この規制によってゆうに大衆薬の六十七パーセントがネットで買えなくなります。便秘薬や痔の薬など、お店で購入するのがためらわれる人には、ネット販売はうってつけ。離島や山村など薬局が近くにない地域在住者、海外在住者、からだが不自由や介護付き添いで容易に外出できない人、そして、のべつ幕なく忙しいビジネスマンにとって、医薬品のネット販売はおおきな助け舟であったはず。
もちろん、MRなど医療業界の従事者、薬剤師からすれば、医薬品が軽々と顔の見えない相手にネットで取引されることに危惧を挺する向きもあるでしょう。しかし、薬学部を出たはずの薬剤師とはいえ個々の薬品の商品知識をもっておらず(学士号をとったのに、その分野の専門知識をまったくもたずに社会にでた学生なんて他学部でもいますが)、また医者のように患者の病態を把握できるわけでもないので、対面販売にせよ安全性が高くなるわけではないという意見もあります。医者の処方する医薬品が、ネットだと安価で買えるという事実もあります。
この不況にこうした規制をかけることで、景気の動きをさらに悪化させる恐れもあるのではないでしょうか。さらにいえば規制をかけるなら、ヤフーのオークションやえせ情報商材などの詐欺まがいのネット取引をもっと厳罰に処すことを優先してほしいものです。
今回の件、おもしろいのは楽天ほか新興企業がひろく意見をつのり、国を相手どって闘おうとしているところ。
これがトヨタだのキャノンだの政界と癒着した大企業なら、こうならない。国民の知らぬところで便宜を図ってもらっているに違いないのだから。こんにゃくゼリーの中小企業は一年にわずかな犠牲者だけで叩かれたのに、毎年おびただしい数の死者を出す飲酒運転事故や肺がん死亡者の元凶、酒やたばこには、今ですらかなりの寛容といえます。しばしば景気のバロメーターとしてもてはやすビール業界やJTと蜜月関係だからなのでしょう。
ネット規制は消費者保護をお題目にしていますが、官僚の利権がらみであることは見え透いています。現物商品と引き換えの代引きサービスやコンビニ受け取りで詐欺などは発生ししにくいですし、伝票を追えば紛失した商品のゆくえも辿れるでしょう。郵政公社を民営化したかわりに、宅配業界の業務権利を奪い、あたらしい出先機関でもつくって天下りさせようという魂胆なのかもしれません。
楽天の署名要請には、喜んで応じることにしました。
もちろん企業の営利活動に関わることですので、反対意見はあるかと思います。が、しかし。ネットモールの存在は、地方の生産農家や小規模だけれど希少価値のある商品やサービスを提供できる商店主にとっては、貴重な場所であります。モノとカネの流通をよくすることが経済をよくする基本だと思いますのに、国みずからが鈍くさせていては、官製不況とさげずまれても致し方ないでしょう。
どうせ規制するならギャンブル業界でしょう? いまTVCMでも台頭するほど元気で違法に稼いでいる業界なんですから、搾り取ってもいいくらい。駐車場や自宅で放置された子どもが死亡するケースが相次いでいるのに、生活保護をもらってもパチンコに使い果たしてしまう連中もいるのに、規制をかけないのがふしぎですね。アニメが使用されているのも不愉快です。
【関連記事】
「医薬品のネット販売規制、賛否両論より大切なもの」(日経BPネット 〇八年十二月十日)
↑ここから、ネット署名に参加できます。
おなかすっきり!健康美人!
最近はいろんな薬物が氾濫し、処方される薬でも間違った使用で身体に異常をきたす。
その保護という側面もあるのでしょう。
でも本当の目的は「消費者保護」を謳った既得権益の保護でしょうね。
お役所がどちらの方を向いているのか。
少なくても私が知る限りでは消費者は二の次ですから今更消費者のためなんて言葉には騙されないぞ。
ただし少数ながらもネットを利用して間違った利用をしている人々がいるのも事実。
それを連中は上手く使っていることは事実です。利用者も考えないとね。
コメントありがとうございます。
>最近はいろんな薬物が氾濫し、処方される薬でも間違った使用で身体に異常をきたす。
こんにゃくゼリーのときでも思った方多いでしょうけれど、事故の原因が利用者の不注意だったというのもあると思われます。
そのまちがった利用で事故が生じても、企業や国を訴えるケースが耐えないので、国(と保護されている大手医薬品メーカー)が先手をうったのかも。
ただ、包帯や湿布、消毒薬、軟膏、おむつなどはむろんのこと、比較的危険性が低いと思われる内服薬(目薬やうがい薬あたり)までも、まったくネットで買えないというのは、遠隔地在住者にとっては困り種。医薬品の安全性に応じて種別をもうけて議論はされているようですけれど。
そもそも薬事法の改正で、あるべきところにはまったくなく、近隣区域に乱立するドラッグストアを規制するのが、先かとも思うのですが。
採算が取れない地域に出店する薬局や、医療機関などを支援するシステムと抱き合わせにしないと無理なのではないでしょうか。
医者や薬剤師がちゃんとした処方をしているとは限らない。私の母は耳の病気で、長年ある耳鼻科から処方される薬を飲んでいましたがいっこうに改善しない。知人にすすめらて別の病院の診察を受けたら、こんな薬では治るはずがないと驚かれたそうです。いまはもちろん完治しています。
医者の処方が信じられなくて、自分でネットで情報をあつめようとする人だっている。私の学んだ大学の教官は胃がんになって手術したのですが、抗がん剤に頼らず、ネットで取り寄せた癌にきく医薬品も試してみたそうです。
ちなみに私じたいは、医薬品の類はネットでは買ったことはないです。激安の使い捨てコンタクトを見かけると欲しくはなりますが、やはり恐いですし。
ただ今回の件は。消費者がまちがった商品のつかい方で被害をこうむれば、けっきょく最終的に保護という名目で規制がかけられる。したがって、自由な消費活動をつづけるためには日ごろからリスクを回避する心構えをもつべき、という告知として役立っているかとは思われます。
「利用者も考えないとね」とは、まさにおっしゃるとおりですね。えてして安物買いで銭失いの賢くない消費者の自分ですから、よけいにそう思います。