じいさまも ばあさまも
オヤジも オフクロも まこちゃんも
史郎も 麦太郎も みんな帰ってきた。
仏間を中心に部屋のあちこちの灯かりの陰で
懐かしがっては喜んでいる。
向うの様子を尋ねようとするのだが
ほほ笑んでいるだけで
だれもそのことには応えてくれない。
それでもみんなのうれしそうな仕草を見れば
向うでは穏やかな暮らしがあるように思える。
ただ一つ不思議なことは、
みんなの喋る声がぼくには聞こえない。
ほほ笑みながら語りかけてくるのだが音声がしない。
水槽の中を優雅に泳ぐ金魚たちを見ているような
そんな感じなのだ。
ぼくの方こそ懐かしくて みんなの体に触れようとするが
どうしても一体にはなれず
間にはなにか薄い皮膜のようなシールドが存在しているようだ。
それでもみんなの心は理解できる。
ぼくらがなんとか元気にやっていることを互いに
喜び合っているいるようだ。
寿司を作って供えると
あちこちの陰から手が伸びてきて
久しぶりの我が家の味にご満悦のようす。
花野ゆくいつしか結界越えてをり