ベンベエの詩的つぶやき

世の中をちょっと斜めに見て・・・

ヴィオロンのため息の

2009-08-24 10:46:07 | 日記・エッセイ・コラム

うれしいことは重なるものらしく

一通の手紙が舞い込み
詩集『よぶり火』の中の一編「海月」に曲をつけて
演奏したいという。
手紙の主は東京芸大音楽学部の学生で
来月、大学にて発表する予定とのこと。

あのような暗い内容の詩に
どうして若い人が興味をもったのか不思議だが
あとで音源と楽譜を送ってくれるという。

日本歌曲コンクールにつづき
なんだかこの頃楽しくなってきた。

  秋の日の ヴィオロンのため息の 身にしみて
  ひたぶるにうら悲し かねの音にむねふたぎ 
  いろかえて涙ぐむ すぎし日の思い出や・・・・・・
         
上田敏訳「海潮音」より

ヴェルレーヌのような悩める友人が梨を提げて訪ねてきた。
ひとり息子は役者になってしまったので
夫婦ふたりで暮らしている。
文学青年と文学少女が出会って一緒になったふたり、
今もその雰囲気を引きずりながら懸命に生きている。

ぼくは梨が好き、
食べるよりも触れていてそのたなごころがいい。
三つの梨、しばらくは視つめていよう。

    
さりさりと寂しき音や梨を食む
  


キツネノカミソリ

2009-08-14 19:04:46 | 日記・エッセイ・コラム

お盆ということもあって
曾祖父の生まれた家を久しぶりに訪ねた。

与謝野晶子が歌にも残した高原山麓で
今は老いた当主が娘さんと二人で暮らしている。
当主は写真家であり短歌を詠み
ぼくの詩の理解者でもある。

 高原山とは那須連山の西方に在り
 かつて黒曜石が大量に産出された美しい姿の山である。

訪ねると屋敷の裏から山麓に沿っていちめん、
キツネノカミソリが群生し
西日を浴びて橙色に燃えていた。
はじめ曼珠沙華かと思ったがこの時季には早すぎて
近づいてみるとキツネノカミソリであった。
同じヒガンバナ科ではあるが
キツネノカミソリのほうが地味で野趣がありぼくは好きだ。

娘さんがジュースを出してくれようとしたが、断って
冷たい井戸の水を二杯ごちそうになった。
これぞ本当の水、美味しかった!

DNAに組み込まれた遙かの記憶だろうか
屋敷内をただよう空気の匂いに
なにかとても不思議な懐かしさを覚えた。

キツネノカミソリ、
我が屋敷にも殖やしてみようと
花が終わったら球根を分けて貰う約束をした。
但し、群生でなければこの花の面白さは判らないが。

     
秋蝉の今日は岬のとっ外れ


セミの木

2009-08-12 11:13:52 | 日記・エッセイ・コラム

日光連山のふもと
青々と波打つうるわしき田園地帯。
ところどころサルビアの赤い帯が流れ
はるかで帆船のような積乱雲が育つ。

トウガラシを買いに直売所に向かう途中の
県道沿いに聳える一本の大きな楡の木。
その千手を高く広げて八月の碧空を支えている。
一里塚の名残りだろうか
周囲に木と呼べるほどのものはなく
この村のシンボルにちがいない。

近づくと夥しい数のセミの声が楡の木を揺すっている。
今年はセミが少ないのを気にしていたところへの
このセミしぐれ・・・・
まさにセミ浄土に踏み入ったような心もち。
車をとめたまましばらく
いのち懸けの声明に耳をかたむける。

夏、真っ只中である。

       
 抱えゐて青とうがらしの息吹かな


とんかつの歌

2009-08-05 10:53:59 | 日記・エッセイ・コラム

なにか急にてんぷらが食べたくなって
二つ先の町まで車を飛ばしたが
あいにくの定休日。
仕方なく中華屋さんにしようとUターンしたが
ここもお休み・・・・・
結局はとんかつを食べることになった。

もう随分昔のことになるが
大学入学の祝いにと
目黒のとある借間で女がとんかつを揚げてくれた。
衣をはがして肉だけ食べる偏食青年に
「一緒に食べなさい」 と母親のようなしぐさ。
はじめて見るレタスに困惑していると
「美味しいから食べてごらん」 と姉さんのようなことば。

東京の夜は仄々とゆたかな匂いがして
新しい生活への不安はいっぺんに消えうせた。

そのときの女というのが今、テレビの前でまどろんでいる。

        とんかつの歌

     とんかつにしようか
     あの日のとんかつに
     ふたりぽっちの夏だから
     とんとん とんかつ とんころりん
     とんとん とんかつ 夢ん中


   
     


トウモロコシ

2009-08-01 11:05:21 | 日記・エッセイ・コラム

夏の食べものの中で一番好きなのがトウモロコシ。
この時季、道路の端で売っているのを
見かけたりすると
Uターンしても買いたくなる。

最後の薄ものを剥ぎ取られ
あらわにはにかんでいる白い肌
舌を焦がしながら熱々の裸身に齧りつけば
忽ちにして少年の夏にタイムスリップ・・・・・・

 ランニングに半ズボンの少年
 長い昆虫網をかかげて
 ミンミンにしようか アブラにしようか
 それとも同時に捕らえようか迷っている
 日は高く
 アブラがじりじりと横に這う
 そのとき婆ちゃんの呼ぶ声がして
 走ってもどると
 大きな笊に茹でたてのトウモロコシがいっぱい
 ミンミンがひときわ近くで鳴き
 虫かごの中にはまだ何もいない

あれから半世紀、きょうも蝉は鳴いているが
少年の日の蝉の方がずっと元気で大きな声であった。

      
 唖蝉の腹しごきゐて独りなり