琥珀
おんなの胸の上で
いちおくねん昔の吐息が
静止している
ほつ と
ひとつぶの気泡
だれが吐いた
交尾を終えたオハグロトンボの哀しみか
白雲を慕うアラウカリア*の憂愁か
それとも夢が精霊のつぶやきか
[夜明けの空] を愛で
賢治は
黄褐色の雫の中にジュラ紀の恐竜を見た
おんなは胸の肌で知っている
ときの彼方に消えていった幾つもの風の音を
なにひとつ閉じ込めてはおけないことを
ようやくおんなが眠りについた明け方には
琥珀の中でかすかに風が巻いて
薄明の空を渡っていくものがある
あれはカササギだろうか
気泡がゆらめいている
*南洋スギ