2008.1.23(水)読売新聞朝刊
水危機③ より
羊が死んだ 湖が消えた
過去50年で最悪の干ばつが、昨年、中国・内モンゴル自治区東部を襲った。
昨年は、春から雨が全く降らなかった。平均気温が平年より1~4度も高い日が続いた。
「20万人と牧畜57万頭の飲み水の確保が困難」。7月、新聞が伝えた。
草の成長が悪く、通遼市では羊約2万7000頭が死んだ。
畑の頼りは地下水だが、水位は地下10メートルから50メートルに下がった。
内モンゴル自治区農牧業庁の担当者は「昨年の干ばつで減ったトウモロコシの収穫量は3分の1。だいたい100万トンの減産になった」と明かした。
国際災害統計EM-DATによると、今世紀に入り、100万人以上に影響を及ぼす大規模干ばつが27カ国で発生。
06年、オーストラリアでは全土に広がり、小麦の収穫量が前シーズンの4割に減少した。
中国北部の629か所の観測点の経年変化を追った研究によると、19450年代に黄河流域より北の中国北半分の干ばつ面積は20%前後で推移していたが
90年代後半には60%に達するようになった。
干ばつが続くと、湖や河川が干上がる。
山西省大同市郊外の文エイ湖は04年にすっかり干上がった。
周囲の堤防の長さ9.3Kの人造湖は、遊覧船が浮かぶ観光地としてにぎわっていたが、水を引いていた川が枯れた。
湖底は、トウモロコシ畑や車の運転練習場に変わっている。
人口が増え、経済成長が続く中国では、水利用が急増し、地方によっては断水で給水車が出たり、給水制限を行ったりする水不足になっている。
干ばつがそれに拍車をかける。
中国の干ばつは、日本にとっても深刻だ。
中国は04年、農産物の輸出国から輸入国に転じ、以降輸入超過が続いている。
日本に安定供給してきた穀物飼料の生産地に中国が買い付けるなど争奪戦がおきつつあるが、これが激化する可能性もある。
干ばつは砂漠化の進行につながり、黄砂の発生源となる。
日本での黄砂の年平均観測日は、90年代の24.4日が、2000年以降は39日に増えた。
環境省の報告書(05年)によると、黄土色の砂が車の上に積もったり、干した洗濯物が汚れたりしたほか、半導体工場で不良品の発生率が増えた。
東アフリカ・ウガンダのマバンバ湿地は、アフリカ最大ののビクトリア湖の北部にあり、ラムサール条約にも登録されている貴重な湿地。
2005年10月から06年2月にかけての大干ばつで危機に直面した。
「一日40~50匹とれた魚が、2~3匹しかとれなくなった」マバンバ村の漁師の一人、セムグさん(36)は、そう振り返った。「あんなひどい干ばつは初めてだ」。集まった漁師たちも口々に言う。
村人たちは06年1月、枯れた湿原に火を放った。
例年の焼き畑ではない。草食動物のレイヨウを捕獲して食べるためだ。
ウガンダのスルマ財務相は「気候が狂い始めた。経済的損失は計り知れない」と取材に答えた。
貧困国ではあるが、飢えを体験したことがない農業国で、キャッサバや、トウモロコシの一種メイズが育たず、困窮した。
水力発電に頼るウガンダは、1962年の独立以来、初めて隣国ケニアから電力供給を受けた。
計画停電の影響で、首都カンパラのスーパーマーケットでは冷凍・冷蔵食品が腐る被害も出た。
水危機①では、「一日何杯使いますか」という題で一日に一人が使う水量を比べていた。
読売新聞と東京大学が共同で実施した家庭の水使用量調査。
容量10リットルのバケツで23杯は米国のコプリーさん、中国の趙さん5杯、ケニアのアンブラさん2杯、日本の名本さん28杯という結果が出たというものだった。
②では、食料生産に使った水「バーチャル・ウォーター(仮想水)」と呼ばれる量を調べていた。料理の食材には多くの水が使われている。
米の栽培をしたり、牛の餌になる穀物を作ったりするのにも水は欠かせない。
一人当たり米国2489リットル、中国1954リットル、ケニアが1351リットル、日本が1611リットル。
メニューで大きく違ってくる。たまたま米国は鶏肉料理、日本は刺身だったため少ない量となっている。
餌となる穀物の栽培に大量の水が使われるため、鶏肉は4.5トン、豚肉は6トン、牛肉は20トンの水が使れている計算になるらしい。
牛丼1杯1887リットル。風呂180リットルにすると10杯分に相当する。
水危機③ より
羊が死んだ 湖が消えた
過去50年で最悪の干ばつが、昨年、中国・内モンゴル自治区東部を襲った。
昨年は、春から雨が全く降らなかった。平均気温が平年より1~4度も高い日が続いた。
「20万人と牧畜57万頭の飲み水の確保が困難」。7月、新聞が伝えた。
草の成長が悪く、通遼市では羊約2万7000頭が死んだ。
畑の頼りは地下水だが、水位は地下10メートルから50メートルに下がった。
内モンゴル自治区農牧業庁の担当者は「昨年の干ばつで減ったトウモロコシの収穫量は3分の1。だいたい100万トンの減産になった」と明かした。
国際災害統計EM-DATによると、今世紀に入り、100万人以上に影響を及ぼす大規模干ばつが27カ国で発生。
06年、オーストラリアでは全土に広がり、小麦の収穫量が前シーズンの4割に減少した。
中国北部の629か所の観測点の経年変化を追った研究によると、19450年代に黄河流域より北の中国北半分の干ばつ面積は20%前後で推移していたが
90年代後半には60%に達するようになった。
干ばつが続くと、湖や河川が干上がる。
山西省大同市郊外の文エイ湖は04年にすっかり干上がった。
周囲の堤防の長さ9.3Kの人造湖は、遊覧船が浮かぶ観光地としてにぎわっていたが、水を引いていた川が枯れた。
湖底は、トウモロコシ畑や車の運転練習場に変わっている。
人口が増え、経済成長が続く中国では、水利用が急増し、地方によっては断水で給水車が出たり、給水制限を行ったりする水不足になっている。
干ばつがそれに拍車をかける。
中国の干ばつは、日本にとっても深刻だ。
中国は04年、農産物の輸出国から輸入国に転じ、以降輸入超過が続いている。
日本に安定供給してきた穀物飼料の生産地に中国が買い付けるなど争奪戦がおきつつあるが、これが激化する可能性もある。
干ばつは砂漠化の進行につながり、黄砂の発生源となる。
日本での黄砂の年平均観測日は、90年代の24.4日が、2000年以降は39日に増えた。
環境省の報告書(05年)によると、黄土色の砂が車の上に積もったり、干した洗濯物が汚れたりしたほか、半導体工場で不良品の発生率が増えた。
東アフリカ・ウガンダのマバンバ湿地は、アフリカ最大ののビクトリア湖の北部にあり、ラムサール条約にも登録されている貴重な湿地。
2005年10月から06年2月にかけての大干ばつで危機に直面した。
「一日40~50匹とれた魚が、2~3匹しかとれなくなった」マバンバ村の漁師の一人、セムグさん(36)は、そう振り返った。「あんなひどい干ばつは初めてだ」。集まった漁師たちも口々に言う。
村人たちは06年1月、枯れた湿原に火を放った。
例年の焼き畑ではない。草食動物のレイヨウを捕獲して食べるためだ。
ウガンダのスルマ財務相は「気候が狂い始めた。経済的損失は計り知れない」と取材に答えた。
貧困国ではあるが、飢えを体験したことがない農業国で、キャッサバや、トウモロコシの一種メイズが育たず、困窮した。
水力発電に頼るウガンダは、1962年の独立以来、初めて隣国ケニアから電力供給を受けた。
計画停電の影響で、首都カンパラのスーパーマーケットでは冷凍・冷蔵食品が腐る被害も出た。

読売新聞と東京大学が共同で実施した家庭の水使用量調査。
容量10リットルのバケツで23杯は米国のコプリーさん、中国の趙さん5杯、ケニアのアンブラさん2杯、日本の名本さん28杯という結果が出たというものだった。
②では、食料生産に使った水「バーチャル・ウォーター(仮想水)」と呼ばれる量を調べていた。料理の食材には多くの水が使われている。
米の栽培をしたり、牛の餌になる穀物を作ったりするのにも水は欠かせない。
一人当たり米国2489リットル、中国1954リットル、ケニアが1351リットル、日本が1611リットル。
メニューで大きく違ってくる。たまたま米国は鶏肉料理、日本は刺身だったため少ない量となっている。
餌となる穀物の栽培に大量の水が使われるため、鶏肉は4.5トン、豚肉は6トン、牛肉は20トンの水が使れている計算になるらしい。
牛丼1杯1887リットル。風呂180リットルにすると10杯分に相当する。