日本艦隊司令部

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恐るべき魔手

2012-11-08 17:00:55 | 第三部 戦慄の南太平洋編
 また長く間を置いてすいません。9月からの新しい仕事になれずへとへとでやられておりました。(その他引越し先探しなど諸々もありました。)

 睨み合いの続くブリッジとその頃オーストラリア近海で


 静かな海中、機械が発する音だけが支配している世界、そこを進んでいるのは一隻の潜水艦であった。統合海軍の主力原子力潜水艦シーホーク号である。旧アメリカ海軍のバージニア級原潜を発展強化させたタイプであるワシントン級に属する。
 ちなみに現在統合海軍の使用している潜水艦はワシントン級、トルネード級、センチュリオン級、スカイダイバー級、フレーザー級の5種類が主力である(退役待ちのロサンゼルス級や予備役のタイフーン級などが現在も存在している)。
 現在この艦はオーストラリア近海エスピリツサント沖海面下200メートルを航行中、指揮を執るダグラス中佐はつい先日艦長に任命されたばかりであった。
「進路クリアー、ようそろ。」
 航海士の報告が艦橋に響く。
「順調の様だな。」
 そう言ったダグラス中佐は110メートルにも及ぶこの艦の指揮を執れることに優越感を抱いていた。
 世界中で猛威を振るうUボートなど何ほどのものか。この高性能原潜にかかればという思いが生まれていた。
「今に見ておれテロリストどもが。」
 その時、ソナーがある音をキャッチした。
「ソナー感!!本艦前方25度に識別不明艦あり!!音紋(船の出すスクリューの音)データに一致せず!!」
 艦橋の空気が張り詰めた。謎の潜水艦、つまり敵である。ダグラスはすぐさま命令を出した。
「全艦戦闘態勢!!前方発射管1番2番注水!!発射用意!!」
 悠長に確認しているような間はない。先日よりこうして遭遇した艦が何隻もやられている。時間を与えず、攻撃しなければならない。
「発射準備完了!!」
「発射!!」

「司令!!上方の敵艦が魚雷を発射しました。」
 ソナーマンからの報告にヘルディは即座に指示を出した。
「囮とも知らずに喰いつきおった。よろしい、アンカー発射!!」
「ハイル!!」
 武器管制官が応じると「ゴボッ」と言う鈍い音を立ててその艦の後方から金属製ワイヤーのアンカーが放たれた。これは遠隔操作で軌道を修正することのできるもので本来ならば潜水艦の救助活動の際に使用するものである。
「馬鹿どもめが。功を焦っては失敗するだけだ。」
 冷静に言葉を放つヘルディは暗い笑みを見せた。彼女らはこの新型艦のテストのために囮の旧式艦を用意して待ち構えていたのだ。

「魚雷命中!!」
 その言葉を聞いた直後に水中に爆発音と衝撃が響いた。
「撃沈は確実だ。諸君、よくやってくれた。」
 ダグラス中佐の言葉に場が緩んだ。その時ソナーマンが突然叫んだ。
「艦長!!下方より謎の接近物あり!!高速で向かってきます!!」
「何!?」
 返答した次の瞬間、艦に金属と思しき衝突音が響いた。
「被害報告!!一体何があった!!」
 衝撃を艦長席のひじ置きに捕まって耐えたダグラス中佐はずれた軍帽を直しながら指示を出した。
『こちら艦尾第6ブロック!!何かが艦尾に突き刺さった模様!!爆発はありませんが各部に漏水あり!!』
『艦尾魚雷庫に浸水!!使用不能!!』
「艦長!!スクリューもやられました!!前進できません!!」
「…。」
 何を間違ってしまったのだ?最初からこれが狙いだったのか?
 そういった疑問を感じた時だった。スクリューが停止した艦が大きく震えだした!!
「落ち着け!!現状報告!!」
 そういいながらも彼は何が起こったのかうすうす分かっていた。
 艦尾から傾いている。それもただの浸水ではない。何かに引っ張られているのだ。
「総員脱出用意!!」
 それしか手は無かった。急激に深度が深くなっていく。だが現実は非情であった。
『ハッチ故障!!脱出できません!!』
 全員が凍りついた。自力で航行できない、脱出も不可能、打つ手は無かった。
「メーデー!!メーデー!!こちら太平洋艦隊所属潜水艦シーホーク号!!緊急事態!!南太平洋司令部応答されたし!!メーデー!!メーデー!!」
 それが最後の通信であった。妨害電波の為かこの通信は各基地へ届かず、120キロほど離れた空母「エンタープライズⅢ」と戦艦「ニュージャージー」がノイズの中からキャッチしたのみであった。直ちに巡洋艦二隻が調査に派遣されたが残骸と海面に広がる救難信号塗料だけが発見された。

 一方、空母「天龍」では凍りついた無言の艦橋で誰もが自らにできる手段を考えていた。だが誰一人として名案は浮かばなかった。相手は見える限り武器は手に持った銃一挺。こちらは一条中佐と沖野中佐のが二挺に駆けつけてきた数名の保安員と数では勝るが侵入者は人質を盾にしている。一秒という時間が全員にとってとても長く感じられた。
「あなた方は何者です!?目的は!?」
 沈黙を破ったのは司令の未沙だった。彼女は司令席を立ち、中央から侵入者を見据えている。彼女との間には輝を含めた数人が立っている。
「何者かは言わなくてもいいんじゃないですかねぇ。それよりもそんな物騒な代物は下ろしていただきたいわね。こっちにはこんなものもあるのよ。」
 そう言いながら女性のほうのスパイが懐から携帯電話ほどの大きさの物体を取り出した。
「言わなくても分かるわよね?指一本であちこちで花火が上がるわよ。」
「そういうこと!!おとなしくしてもらおうか。」
 その一言に全員が悟った。今「天龍」乗務員達の命は彼らに握られていると。
 その時、開け放された扉の向こうから声が響いた。
「はっはっはっはっ!!よろしい!!作戦は無事成功だな!!」
 一人の男が艦橋へと入ってきた。その姿を見た艦橋の面々はさらに驚いた。
「グラント大尉!!これは一体どういうことだ!!」
 先頭にいた輝が問いただした。その男はシンガポールから乗り込んできた士官であった。
「一条中佐、口を慎んでいただきたい。」
 そう言うとグラントは男の侵入者の向かって右斜め前に立ち、銃を取り出した。
「私はグラントではない。真帝国から派遣された偽者。本物はすでに存在しない。」
 その一言に全員が衝撃を受けた。
「なんですって!?」
 それを代表するかのように未沙が驚きの声を上げた。それを確認したグラントは勝ち誇ったように話を続けた。
「私は仲間を手引きする役目を負って本物と入れ替わったのだ。私だけではない、多くの仲間もいるのだよ。」
 何度目かの衝撃と沈黙がその場を包んだ。
 そして充分間をとったグラントが続けた。
「ではこれより要求させていただく。たった今よりこの「天龍」は私の指示に従っていただく。護衛艦は全艦直ちに機関停止、全砲門の仰角を下げてあさっての方向へと向けさせたまえ。」
 勝ち誇ったような台詞を述べるグラントへと輝が銃口を向けた。
「お前は正気か!?例えこの艦を掌握したとしてもこれだけの大艦隊を振り切れると思っているのか!!」
 輝の発言に艦橋にいた面々は少々士気を持ち直すことができた。しかし、グラントはさらに続けた。
「果たしてできるかな?護衛艦隊の指揮を執っている正木俊介大佐はあなたと以前から親交が深い。しかもあなたは統合軍中央とも深く関わっている。考えるだけ無駄ですよ。」
 グラントの発言は真実であった。確かにその通りだろう。少なくとも「天龍」が味方の攻撃を受ける可能性は低いといえる。
「それと一条中佐、黙っておけという言葉が貴様は理解できないのか!?」
 輝の発言に少々気分を害されたと思われるグラントが銃口を自分に向ける輝へと自らの銃口を向けた。
「少なくとも貴様の部下の命は風前の灯ともいえるのだぞ!!」
「中佐!!撃ってください!!俺に構わず撃って下さい!!」
 グラントの言葉に触発されたように人質の柿崎伍長が叫んだ。その時だった。
「人質らしく大人しくしてろ!!お前だけではない!!我々には爆弾もあるのだ!!」
 強い言葉が発せられ、柿崎の腹部にグラントが肘鉄をかました。
「ぐぇっ!!」
「柿崎!!」
 艦橋の緊張の度合いがまた一段と強まった。
「命令に従わぬ者には死だ!!」
 そう言ったグラントが輝に向かって指に力を込めた。
「一条君!!」
「「「一条中佐!!」」」
「一条!!」
 未沙、スプルーアンス参謀長、沖野中佐、天野、エマ両少佐の叫びと同時に銃声が響いた。

 果たして輝は!?次回に続きます。