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猪熊隆之の観天望気講座111

2018-07-05 16:42:50 | 観天望気

5月下旬、体験活動安全管理講習会が赤城山で行われました。その時の観天望気講座について2回に分けて解説していきます。1回目は登山前に、登山当日の気象リスクを想定する方法についてです。観天望気講座というよりは、「山の天気リスクマネジメント」的な内容ですが、重要なことですので、今回はそれについて書かせていただきます。

さて、まずはいつものように、登山前日に登山当日の予想天気図を見て、気象リスクを想定するというところから始めましょう。

図1 23日の段階で気象庁ホームページから入手した24日9時の予想天気図

図1を見ると、前日に雨をもたらした低気圧が関東の東海上へ抜けているのが分かります。ただし、赤城山付近(図中の△印)では等圧線の間隔が狭く、風が強いことが想定されること、また、等圧線の向きから北寄りの風になることが想定されます。

山では海側から風が吹くときに天気が崩れる、という大原則があります。赤城山の場合はどちらから風が吹くときに天気が崩れるのか、地図から確認していきます。

図2 赤城山と海との位置関係

 

赤城山は日本海と太平洋の中間にあり、日本海からも太平洋からも比較的離れています。

特に、日本海との間には谷川連峰、奥日光や尾瀬の山があるため、日本海からの湿った空気はこれらの高い山に遮られて入りにくい場所です。また、西側や南西側にも北アルプスや八ヶ岳、奥秩父などの高い山があり、こちらから風が吹くときも天気が崩れにくいことが分かります。

一方、南東側や南側は関東平野が広がっており、これらの方角から風が吹くと、太平洋からの湿った空気は遮られることなく、赤城山に到達します。東側も足尾山地などの低い山ですから、湿った空気は入ってきます。

ということで、今回のように北~北西風が吹くことが予想されるときは天気の崩れは小さいとみることができるでしょう。低気圧が抜けて乾いた空気が入ってくることからなおさらです。ただし、冬季など冬型の気圧配置が強まったり、上層の寒気が強く、北~北西風が強まるときは谷川連峰などの標高の比較的低い山を雪雲が越えてくるため、赤城山周辺では吹雪となります。

次に、登山中の気象リスクを想定するために、国土地理院の25,000分の1地形図で確認しましょう。今回の登山は赤城山の南西側にある鍋割山を南側から登るルートになります。

図3 登山コースのリスクを地形図から確認しよう!

電子国土ホームページより

https://maps.gsi.go.jp/#5/36.104611/140.084556/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s0f1

登山ルートは、鍋割山から南~南西側に延びるルートです。気象リスクは樹林帯の山か、森林限界を超えるなど、開けた場所を長く歩く山とで大きく異なる。今回は標高が1,300m台と低いため、樹林帯の山と思われるが、緑色のカコミ部分をご覧いただくと、荒れ地のマークになっています。ということで、山頂付近と中間部分で開けた場所があることが想定されます。ここでは強風による転滑落、低体温症、落雷のリスクに留意します。

沢を渡渉したり、沢沿いに歩く箇所はありません。また、崩壊地やガラ場、涸沢などもなさそうですから、大雨による沢の増水リスクはないと考えます。

ということで、気象リスクは、強風による転滑落、低体温症、落雷になりますから、これらのリスクが高い、2つの荒れ地に出る場所を引き返しポイントとしましょう。また、それぞれの荒れ地の下側には急傾斜(等高線が密になっている)の場所があります。ここでは転滑落や降雨時など道が濡れているときはスリップにも注意が必要だと考えます。

3つの気象リスクのうち、低体温症は天候が良く、陽射しがあってそれほど強い寒気が入ってこないことから考えいにくいですね。次の強風による転滑落は、等圧線が込んでいることや、山頂付近など開けた場所があることから想定されますが、北~北西風になる予想から、尾根の風下側を歩く今回のルートではそれほどリスクが大きくありません。山頂付近で長居をしなければ大丈夫そうです。

落雷については、雲のやる気を500hPa面(高度約5,700m)の気温から見ていきましょう。

図4 23日9時を基準とした24日9時の500hPa面気温予想図

山の天気予報「専門・高層天気図」https://i.yamatenki.co.jp/ より

この時期は、マイナス15℃から18℃以下の寒気が入ると、雲がやる気を出しやすくなります。この日は前橋の最高気温が28℃と予想されていましたので、マイナス15℃程度でも積乱雲が発達する恐れがあると予想します。

ということで、落雷のリスクはあると考えますが、午後になるとこの寒気が抜けていく予想になっていました(図5参照)。マイナス15℃以下の寒気は残っていますが、寒気は入ってくるときの方が抜けていくときよりも、雲がやる気を出します。

図5 23日9時を基準とした24日15時の500hPa面気温予想図 

山の天気予報「専門・高層天気図」https://i.yamatenki.co.jp/ より

また、赤城山付近は谷川連峰を越えてくる乾いた北風によって空気が乾燥することが予想され、雲を作るのに十分な水蒸気がないことから、落雷や強雨をもたらすような積乱雲が発達する可能性は低いとみました。

そこまで予想できない場合には、500hPa面の気温から、落雷のリスクがあると考え、周囲の雲の様子を見ながら「雲のやる気」や落雷のリスクについて考えていきましょう。そのためには朝起きたときにまずは外に出て空を見上げましょう。次回は登山中に、観天望気から雲のやる気を見る方法についてです。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 


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