山の天気予報

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猪熊隆之の観天望気講座96

2017-07-08 21:57:16 | 観天望気

~雲の気持ちを学ぶ!雲取山空見トレッキング 1日目~

 今回と次回は、6月17日~18日に開催された、雲取山での空見トレッキングで見られた雲について、2回に分けて解説します。

この日は日本海に高気圧があり、一見、関東地方を覆っているように見えます(図2、3参照)。しかしながら、関東地方から見て高気圧が北にあると、太平洋からの湿った北東風が入って関東地方ではどんよりとした曇り空になり、小雨が降ることもあります。一方で、風下側の甲府盆地や佐久平では下降気流場となり、お天気が良くなります(図1参照)。

図1 湿った北東風が吹くときの天気分布(山岳気象大全第7章「山と渓谷社」より)

 そのようなときは、雲取山や大菩薩嶺付近が「曇り」と「晴れ」の境界になる訳で、雲取山や大菩薩嶺はお天気を学ぶのに良い山です。

 このときは、朝の段階(図2)では高気圧が雲取山や関東平野の北西にあり、高気圧から吹き出す風は北~北西で、山越えの気流となったため、雲取山や関東平野ではお天気が良くなりました。西武秩父駅に降りたときは暑かったのですが、標高約1,100mの三峰神社に到着すると思った以上に涼しく、新緑の中を涼風が吹き抜ける快適な山行になりました。 

図2 17日6時の天気図

 

写真1 爽やかな青空が広がる荒川源流の山並み

 図3 17日15時の天気図

 ところが午後になると、低い雲が関東平野の方(東側)から広がってきて夕方には、雲取山荘付近の稜線ではガスに覆われていきました。天気図を見るとその理由が分かります。高気圧が関東地方の真北に来て、北東からの湿った空気が入る形に変わったからです。

写真2 午後になって低い雲が広がってきた雲取山周辺

 空気は気圧が高い方から低い方へ流れていくので、気圧が高い高気圧の中心から周囲へと風は吹き出していきます。それが地球の自転の影響で右向きに変わっていきます。高気圧周辺では図4のように、時計周りに風が吹き出していくと覚えておきましょう。高気圧の南側に入る場所では北東風となり、関東地方や山陰地方では天気がぐずつきます。

図4 高気圧周辺の風の吹き方(山岳気象大全第4章「山と渓谷社」より)

 さて、この時期晴れると気になるのが、午後になって雲のやる気が出るかどうか。雲がやる気を出すと、積乱雲に成長し、落雷や局地豪雨の恐れがあります。前回、あるいは第10回で学んだように、雲がやる気が出るときの条件は

1. 上層(高度5,000m以上)に強い寒気が入る

2. 下層(高度1,500m以下)に温かく湿った空気が入る

この2つが重要でした。5、6月の時期には時々、内陸を中心に日中、30℃を超えるような暑い日がありますが、そのようなときに上層に強い寒気が入ると、俄然雲はやる気を出します。6月中旬から下旬の時期には500hPa面(高度約5,700m付近)でマイナス12~15℃以下という寒気が目安となります。これが落雷や局地豪雨が発生する可能性を前日までの段階で知る手がかりになります。

さて、この日の寒気の状況を前日に発表された予想図から見ていきましょう。

図5 500hPa(高度約5700m付近)の気温(17日6時)

図6 500hPa面の気温(17日15時)

 

※図5、図6ともに「山の天気予報」 https://i.yamatenki.co.jp/ 専門天気図より

これらの図を見ると、500hPaでマイナス12℃以下の寒気は雲取山周辺にはかかっていません。6時まで、関東東部沿岸にかかっていますが、これは前日、関東地方を覆っていた寒気で既に抜けつつあります。前日はこの寒気の影響で関東地方は平野部でも雷雨になった所がありましたが、この日は雲のやる気を出せる寒気は入っていません。さらに涼しく爽やかな陽気でしたので、下層に温かく湿った空気も入っていないということになります。ということで、この日は雲がやる気を出すことはありませんでした。

ちなみに、梅雨明け以降、真夏の時期の目安は500hPaでマイナス6℃以下になります。

写真3 やる気を出せなかった雲

※図、文章、写真の無断転載、転用、複写は禁じる。

写真、文責:猪熊隆之


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