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猪熊隆之の観天望気講座161

2020-10-01 21:03:38 | 観天望気

木曽駒ヶ岳で見られた雲を徹底解説!

~雷雲が発生しやすい状況下で登るドキドキ登山partⅠ~

今回は、「木曽駒ケ岳・空見ハイキング」で見られた気になる雲を解説します。

ツアー初日。お昼過ぎの集合ということで、今日は宝剣山荘までの短い行程ですが、歩き始めが14時頃になるので、雷に捕まらないかどうかが不安。ということで、登山前に天気図をチェック。雷雲が発生する条件は

1.上空に寒気が入ってくること

2.下層(地面近くの空気)に温かく湿った空気が入ること

でした。詳しくはjRO「猪熊隆之の山の観天望気講座」第10回「やる気のある雲とない雲」、第38~39回「丹沢・鍋割山の落雷事故Ⅰ、Ⅱ」、第40~41回「ガイド協会岳沢 落雷と強雨partⅠ、Ⅱ」をご参照ください。バックナンバーは https://www.sangakujro.com/category/blog/inokuma/ からお読みいただけます。このうち、1は500hPa面(高度約5,800m)を見ることが重要でした。梅雨明けから秋雨に入るまでは、マイナス6℃以下の寒気が入ると、雷雲が発生することが多くなります。そこで、当日午後の500hPa気温予想図を見てみましょう。

図1 ツアー初日の15時の500hPa(高度約5,800m)面気温予想図

図1をご覧いただくと、中央アルプス付近ではマイナス6℃(太線)とマイナス3℃(細線)の間にあることが分かります。ということで、雷雲が非常に発生しやすい状況ではないものの、やや発生しやすい状況であります。もうひとつ、500hPaと850hPa(高度約1,500m)の気温差を見る方法もあります。これは一年を通じて使える方法です。

  • 850-500の気温差27℃以上・・・雲が非常にやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクが非常に高い)
  • 850-500の気温差24℃以上・・・雲がやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクが高い)
  • 850-500の気温差21℃以上・・・雲が少しやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクがやや高い)

ということで、この日の850hPa(高度約1,500m)面の気温予想図を見てみましょう。

図2 図1と同時刻の850hPa(高度約1,500m)面気温予想図

中央アルプス付近では18℃より気温が高く、21℃以下ですので、19~20℃前後でしょうか?この気温は日射による影響が少ないので、20℃とすると、500hPaが-4~-5℃、850hPaが20℃ですから両者の差は24~25℃ということで、雲がやる気を出せる(落雷、局地豪雨のリスクが高い)状態です。

次に、下層に温かく湿った空気が入るかどうかをチェックしていきます。本当であれば、相当温位予想図を見るのが良いのですが(158回 https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/90e4576dec6ec6c67a233724b9ae1288 参照)、見方は少し難しいので、気圧配置を見ていきます。温かく湿った空気が入りやすい気圧配置は

・停滞前線の南側(おおよそ前線から300km以内)

・寒冷前線付近とその前面(進行方向100km以内)

ということになりますので、このような前線が天気図上に現れていないか確認しましょう。

図3 ツアー初日午前9時の地上天気図

図3に書かれている扇形と尖ったマークが交互になっている前線は停滞前線です。つまり、中央アルプスはこの南側に入る訳で、思いっきり1に当てはまります!こうした前線が南に下がってくると非常に危ないのですが、今回は午後になっても前線の位置がほとんど変わっていないのが唯一の救いです。

いずれにしても。この日は雷が発生しやすい条件1、2とも満たしているということになります。

本来であれば、このような状況のときは、出発を早めてお昼頃には目的地に到着するようにしたいのですが、残念ながらツアーですのでそうはいきません。ということで、予め、雷雨に襲われたときにどこに避難するかを想定していきます。避難する場所については、jRO「猪熊隆之の山の観天望気講座」第39回「「丹沢・鍋割山の落雷事故Ⅱ」 https://www.sangakujro.com/category/blog/inokuma/ でご確認ください。

今回は、千畳敷から宝剣山荘ということで、遊歩道と登山道の分岐まではロープウェイの千畳敷駅に戻るか、そこまで間に合わなければ、カールの底にある池付近に避難するのが良いでしょう。一方、登山道に入ると急傾斜の沢状の地形になり、落石などのリスクが大きくなりますので、逃げ場所が少なくなります。したがって、雷雲が周囲で発達していたり、接近したりするときは、千畳敷駅で待機する(最悪、待機中に雷雨がおさまらなければ最終のロープウェイで下山)という選択肢しかありません。

あとは、観天望気で判断。まずは出発前、お昼頃の雲の様子です。

写真1 山麓からの宝剣岳(ツアー初日12時頃)

12時でこの程度は、特に危なくもなく、安全でもない、いわゆる“普通”の危険度ですね。ただし、山の反対側(木曽側)で雲がモクモクとやる気を出してきていますのが気になります。中央アルプスでは、北西側や西側から雷雲が接近することが多いからです。

写真2 千畳敷到着時の雲の様子

ロープウェイで千畳敷に上がると、霧。これだと周囲の雲の状況が分かりません。そんなときは、以下の方法を試してみましょう。

霧の濃さから天気を判断する方法

1.空を見上げたとき、霧が薄く、明るい感じ。太陽が透けて見える。

2.空を見上げたとき、霧が濃くて暗い感じ。

1の場合、雲が薄いことを示しています。つまり、雲がそこまでやる気になっていない証拠です。雲が薄ければ、雲の中で雨粒が成長できず、雨は降っても霧雨程度。雷を伴った強い雨が降る心配はありません。しかしながら、近くに発達した雲がある場合は、その雲が近づくと天候が急変する可能性があります。

2の場合、雲が厚いことを示しています。いつ雨が降り出してもおかしくない状況です。霧に覆われる前に、周囲で入道雲が発達していることが確認できているときは、落雷のリスクがある場所や沢沿いから離れるようにしましょう。また、携帯がつながる場合は、雨雲レーダーや雷レーダーを確認して周囲に発達した積乱雲(やる気を出した雲)がないか確認しましょう。

雨粒の大きさから判断する方法

雨粒の大きさが雲がどのくらい、やる気を出しているかを知る目安になります。パラパラとでも大粒の雨が降り始めたときは、雲がやる気を出している証拠。まして、ひょうやアラレが落ちてくるときは、雲のやる気はMAX状態です。すぐに、少しでも安全な場所へ避難しましょう。

風から判断する方法(霧に覆われているとき)

  • 急に冷たい風が吹き始めたとき
  • 稜線上で冷たい風が吹いていたのが、反対側から生暖かい風が吹き始めたとき
  • 風が急に強まりだしたとき
  • 3と逆に風が急に弱まったとき

上記のいずれかの兆候が見られるときは、雷雲が近くにある恐れがあります。

千畳敷で空を見上げてみたところ、霧は薄い感じでした。上空の雲は、それほどやる気を出していないようです。また、風はほとんど吹いていません。弱い谷風(たにかぜ)が吹いている程度です(谷風については、98回 https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/65ff7031ab34f28cac97b35fe03dff08 参照)。また、雨雲レーダーで確認したところ、木曽側で少し雨雲が発生しているのが気になりますが、雷雲は南アルプス北部でやる気を出しているようで、この雲が中央アルプスに接近することは考えにくい状況です。ということで出発することにしました!さて、我々の運命や如何に?次号に続く。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 


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