木曽駒ヶ岳で見られた雲を徹底解説!
~雷雲が発生しやすい状況下で登るドキドキ登山partⅡ~
ツアー初日。出発前に天気図で確認したところ、雷雲が発生しやすい状況であることが判明。しかしながら、ツアーのため、出発時間は変えられない。そこで、最悪のことも想定したうえで出発することに。出発時、千畳敷では空や風、雨雲レーダーを確認しました。今のところ、すぐに雷雲が真上で発生したり、近くから接近することはなさそう。「何とか宝剣山荘までの90分程度持ってくれるように!」とイノ坊主に祈りつつ、歩き出します。
写真1 困ったときはイノ坊主頼み
最初の引き返しポイントは遊歩道と登山道の分岐点。出発してから20分程度ですが、空を見上げます。相変わらず、霧に覆われて周囲の状況は確認できませんが、霧の暗さが濃さを増しており、少し雨粒が落ちてきました。ここで重要なのは雨粒の大きさ。幸い、小粒だったので先に行くことにします。念のために、雨雲レーダーを確認した所、まだ周囲でそれほど発達した雲はないようです。
分岐から先は、気象リスクの高い場所になります。ご参加者もそれを分かっていらっしゃるので、知らず知らずに少し早歩きになります。落石に注意しながら雷雲に捕まることなく稜線に到着。ここからは2~3分で宝剣山荘です。木曽側にはやる気を出した雲がモクモクと。危なかった~。何とか無事、到着できました!サンキュー、イノ坊主。
写真2 木曽側で雲がやる気を出してきた!
上の写真のような雲が見られたら、良い子はすぐに避難をしてくださいね。
さて、到着後、近くの見晴らしの良い稜線に出ると、雷雲がいくつも連なっているのが見えました。高い山の上からは、立体的に雲を見られる他、雷雲を真横から見ることができます。まさにそんなシーンに出くわして興奮状態MAX。何とか感情を抑えながら、雲の解説をしていきます。
写真3 眼前に広がる見事な雷雲の連なり
雷雲はいくつもの雲の集合体であることが多く、今回も複数の雲が上空でつながっていました。ひとつひとつの雲は、出来立てホヤホヤの赤ちゃん雲からお爺ちゃん雲まで様々です。
図1 雷雲の世代交代
最初、何らかのキッカケで赤ちゃん雲ができ、上空に寒気が入るなど、雲がやる気を出せる環境になると、どんどん成長して子供の雲から大人の雲へと成長していきます。大人の雲になると、雲の中で雨粒が成長していき、それが上昇気流の弱いところを狙って落ちてきます。次々と雨粒が出来ていき、雨が落ちるルートができると、そこが下降気流となります。大人の雲は、ひとつの雲の中で上昇気流と下降気流が起きています。やがて、雲の中が下降気流で占められるようになり、新たな雲ができなくなると、雲は雨粒として落ちていき、衰弱していきます。その状態がおじいちゃん雲です。ところが、大人の雲やおじいちゃん雲の中で雨によって冷やされた空気が下降気流によって地面に到達し、周囲に広がっていきます。周囲の暖かい空気とぶつかる所で上昇気流が起き、新たな子雲が生まれるのです。こうして、世代交代をしながら雷雲は移動していきます。そんな、雷雲の家族を正面から(横から?)見ることができました。
写真4 やる気MAX!大人の雲
大人の雲は真っ黒でさすがに迫力があります!雲の上端の毛羽だっている、半透明の雲はすじ雲です。雲の中でもっとも高い所にあり、氷点下40度以下の気温です。そのため、100%氷の結晶でできています。雲の上部でこのような特徴が見られるときは、雲が非常に高い場所にまで成長している証拠で、かなり発達した雷雲ということになります。
雲の底から垂れ下がるレース状(白色の枠)は、降っている雨が可視化されており、その下では激しい雷雨になっているでしょう。
その下にある白い塊状の雲(緑色の枠)は、層雲(そううん、別名きり雲)で激しい雷雨によって、空気が水蒸気でいっぱいになり、それが上昇して冷やされて雲になったものです。このように、雲は空気の気持ち(状態)を表してくれます。それが分かるようになると楽しいですね!
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
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