山の天気予報

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猪熊隆之の観天望気講座90

2016-12-07 14:57:10 | 観天望気

細々とやってきました観天望気講座も90回目を迎えました。

これまでお付き合いいただいた皆様、ありがとうございます。

さて、今回は12月6日(火)におこなった、富士山麓での空見ハイキングの際の天気です。

この日は、寒冷前線が前夜から朝にかけて日本海側から太平洋側へと通過する予想となっていました。

下の天気図を見ますと、9時には寒冷前線が南海上へと抜ける予想になっております。

図1 12月5日時点での6日9時の予想図(気象庁ホームページより)

ところが、9時の富士五湖付近ではまだ、南西の風が吹いており、気温も高めでした。

さらに、中央高速を走っていると、西の空や北の空に寒冷前線に伴う雲が出ており、次第に接近する状況でした(写真1→写真2)。

写真1 前方に寒冷前線に伴う雲が現れる。寒冷前線に伴う雲はもくもくとした塊状の雲が連なっている。

写真2 もくもくとした雲が接近中

このとこから、予想より寒冷前線の通過が遅れていると推測しました。

寒冷前線は温かい空気があった所に冷たい空気が入ってくるときにできる前線です。温かい空気が急激に持ち上げられるため、温暖前線のときに見られる層状のなめらかな雲ではなく、塊状の雲が発生します。前線の暖気側や通過時には積乱雲が発達し、落雷やひょうなどを伴って激しい雨が降ることがあります。

寒冷前線についての説明は、http://www.sangakujro.com/%E9%9B%B2%E3%81%8B%E3%82%89%E5%B1%B1%E3%81%AE%E5%A4%A9%E6%B0%97%E3%82%92%E5%AD%A6%E3%81%BC%E3%81%86%EF%BC%88%E7%AC%AC8%E5%9B%9E%EF%BC%89/ をご参照ください。

しかしながら、寒冷前線は、暖気側で南からの温かく湿った空気の入り込みが弱いと中部山岳を越える間に弱まっていきます。冬季はこのパターンが多くなるので、関東地方や東海地方など太平洋側では寒冷前線の通過を明瞭に実感できないこともあります。

今回もこのパターンでした。

写真3 寒冷前線に伴う雲が南アルプスを越えて弱まる。

上の写真3をご覧いただくと、南アルプスの後面にはもくもくとした、寒冷前線に伴う雲が横たわっています。特に標高の高い白峰三山のある右側の方が雲が発達しています。ところが手前側の山(緑色の囲み)には雲がかかっていません。これは山を越えて下降気流となり、雲が蒸発して弱まるためです。また、山の反対側から侵入する湿った空気が南アルプスによって遮断されてしまうこともあります。

赤色の囲みは雲がベールのようになっていますが、尾流雲と呼ばれる雲で、雨や雪が降っていたり、雲が下降しながら蒸発しているときにできる雲です。山を越えて雲が下降している様子が分かります。

私たちが登った竜ヶ岳も南アルプスの風下側にあるので、天気の大きな崩れはなく、南アルプスを越えて再び毛無山塊で上昇した空気が小さな雲を作る程度でした。そのようなとき、前線が通過したかどうかは、南アルプスや富士山など周囲の高い山岳にかかっている雲が増えているか、小さく弱まっていくかどうかで判断します。

写真4 富士山にかかる雲

上の写真4を見ると、富士山に雲がかかっています。このときまでは雲がやや増えて大きくなっていく傾向でしたが、これ以降、雲は写真5、6のように次第に減っていきました。これは寒冷前線が抜けて、その後ろ側の乾いた空気が入ってきていることを表します。

写真5 富士山かかる雲が減っていき、高度も低くなっていく。

写真6 写真5の数十分後、富士山の雲はほぼなくなる。

このように、周囲の高い山岳にかかる雲の変化を見ることで、天気の変化を予想することができます。

ただし、これは中部山岳の風下側の山です。日本海側や西日本の山岳では寒冷前線の接近、通過に伴って天候が急変し、雷を伴った激しい雨が降ることもあります。この日も日本海側の山岳では大荒れでした。

※図、文章、写真の無断転載、転用、複写は禁じる。

写真、文責:猪熊隆之

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