from KASHIWA with SPIRIT

わかっちゃいるけど浮かれちゃう

新刊文庫BLOGレビュー選手権 2005 9月度「TATTOO BLADE2」市川丈夫

2005-09-03 00:54:38 | 課題図書
さて、いよいよレビュー本編。「世紀の問題作」の最期はどう幕が引かれたのか。
……問題作の名に恥じない幕引きであった。
評価は5段階で最高は5、最低は1でつけている。
前巻のレビューはこちら
今回のレビューの予告編はこちら

9月4日追記
著者のブログ、Sideway-Shuffle新刊「TATTOO BLADE 2」発売という記事にトラックバックを送らせてもらったのだが、削除されてしまったようだ。もう一つの書評のトラックバックは残されているので、否定的な書評は受け付けないということなのだろうか。
そういう管理方針であるならばとやかく言う事ではないのだが、プロの作家としての看板を掲げて実名で運営しておられる以上、批判的な評がくることも当然想定内の事だと思う。肯定的なトラックバックだけ残して、批判的なものは削除するというのはあまりに度量の狭い行動ではないだろうか。
まあ、ブログのメインの話題はウォーゲームのようだから、本業のことであれこれ言われるのは煩わしいのかもしれないが。

設定変更とリンクという記事で「基本的にリンクフリー」と明記しておられるので、無断でリンクを張らせて頂いてます。

物語:1
続編である。当然、前巻からの敵である、魔群との戦いがメインに据えられる。がしかし。
これがちっとも面白くないのだ。相変わらず筋立てはどこかで見たような陳腐なものだし、主人公サイドは常に受け身で敵に振り回されるだけ、相変わらず伏線を張るばかりで一向に掘り下げられない過去の因縁。
そして、最悪なのが全ての物語を放り投げて未完のまま終わっているということ。まるっきり打ち切り少年漫画のパターンなのだ。
結局文庫本2冊を費やして、主人公がヒロインとくっついただけ。しかも元々両思いで障害もない。そんな話のどこを面白がれというのだろうか。
「最終巻」という表記が見られるのは帯だけなので、そもそもは続巻があるつもりで書かれたのかもしれないが、そうだとしたら編集者の責任であろう。
文句なく評価は1。

キャラクター:1
基本的にメインのキャラクターは前巻から引き継ぎ。主人公のライバル(を意図したと思われる)キャラクター、「ゼット・ハンニバル」という少年が新登場している。
この作品のキャラクター全般に言える事は、「頭が悪い」ということだ。登場キャラクターのほとんどは軍人だったり特殊機関の工作員だったりする(この点もあんまりだとは思うがこのジャンルの小説にはありがちなので置いておく)のだが、どいつもこいつもプロには見えない頭の悪い行動ばかり。
なんで命がけで取り返してきたヒロインに護衛もつけないでまたあっさりさらわれるのだ。あまりにも話の都合を優先させすぎていないか。
話の都合のためだけに存在するキャラクターがいいキャラクターになる事はまれだろう。
新キャラクター「ゼット」も魅力的とは言い難い。主人公への対抗心や過去の因縁が垣間見えてはいるのだが、やはり掘り下げられる事がないため、結局中途半端なキャラで終わってしまっている。
主人公に至っては、ほとんど状況に振り回されていただけ。内面や人間性が語られる事はほとんどなかった。
評価1。

舞台設定:1
前回も触れたとおり、舞台は2020年。前巻では特にオーバーテクノロジーを感じさせるものは出てこなかったのだが、今回は目白押しである。核融合推進船だの、マイクロマシン兵器だの、たった15年後のことだとは思えない。フィクションであるから何でもありではあるのだが、これも前巻でこの手のものが出てこなかったことを考えると、敵のメッサーシュミットと対比させるために出してきたのではないかと疑いたくなる。
あまりにも説得力に欠けるものだった。評価1。

文章力:1
地の文が絶対に二行にまたがらない文体は健在。ここまで徹底されると、意識的にやっているのだと思うが、理由がわからない。明らかに段落を変える必要のない箇所でも、徹底的に一文で改行。まるでチャットのログを読んでいるようだ。
しかも、前述の通り、話を広げるだけ広げて、何一つ解決できていない。前巻から向上しているとも思えない。評価1。

装丁:2
前巻同様。標準的な装丁である。人間の描き方をはじめとする画力に問題がある点も同様。少年は少年らしく。老人は老人らしく。まずそれが出来ていなければ、プロの仕事とは言い難いのではないだろうか。評価2。

価格:1
今回は355ページ、本体価格660円。高いとしか言い様がないだろう。まして内容が伴っていないのだから。前回も書いたが、まともに段落分けをして詰めて書けば、半分のページ数で収まる。評価1。

総評
今回は、二巻目で読む側に慣れがあるためか、前巻ほどの破壊力はなかったように思う。しかし、決して内容が向上しているわけではない。プロの水準に達している作品とは思えない。このレビューを読んで興味を持った方、是非身銭を切って読んで頂きたい。そうでないと、この憤りは伝わらないであろう。
とはいえ、前巻を読んだあと、違う作者のライトノベルを二作ほど読んで、そもそもアベレージの低いジャンルだと言う事を思い知ってしまったのだが、いくら読み手が小・中学生中心とはいえ、こんなレベルの作品が罷り通っては、この業界に未来はない。

新刊文庫BLOGレビュー選手権 2005 9月度予告編

2005-08-28 01:21:05 | 課題図書
今年4月、ブログ界のごく一部を震撼させた書物があった。
『TATTOO BLADE』(市川丈夫/著)。二瓶氏をして「世紀の問題作」と言わしめた作品である。
半年前、その作品を読了したときに危惧していた事態が、ついに現実のものとなった。そう、続編の出版である。二巻目にして最終巻と銘打たれ、ページ数も増量、著者の気合いがひしひしと本から伝わってくる。

近日中にこの「TATTOO BLADE2」に挑み、その顛末を報告するつもりだ。乞うご期待!

新刊文庫BLOGレビュー選手権 2005 4月度「TATTOO BLADE」市川丈夫

2005-04-18 00:33:04 | 課題図書
4月度レビュー、「TATTOO BLADE」著:市川丈夫、イラスト:上田夢人、富士見ファンタジア文庫。初回から、かなり厳しい状況になっている。評価点は5点満点で、5が最高点である。

物語:1
ナチスの生き残りに狙われた幼なじみの少女を救え。大雑把にストーリーをまとめると、こういうことになるだろうか。これが、さっぱり面白くない。まず読者は序章で打ちのめされる。第二次大戦で崩壊したナチス第三帝国から脱出するUボートが描かれるのだが、全く軍人に見えない軍人達、稚拙な状況描写。何より致命的なのは、「終戦のローレライ」福井晴敏、の序章とほぼ同じシチュエーションを書いてしまっていること。文章力や構成力、密度が比較にならないだけに、出来の悪さが一層強調されている。
その後も、どこかから引き写してきたような話が最後まで続く。道具立てが平凡でも、面白い物語は存在する。だが、この作品の場合は、描写が稚拙、主人公のトラウマの原因となった過去の事件などの、肝心なところが掘り下げられていないため、非常に薄っぺらい。平たく言うと、パクリの集合体に見えるのだ。
ハッキリ言って、ストーリーの善し悪しを論じるレベルに達していない。よって、評価は1とする。

キャラクター:1
魅力のある人物がいない。主人公はただ強いだけ。ヒロインとの結びつきの強さを物語るようなエピソードもないため、なぜヒロインを守るのか説得力が弱い。ヒロイン自身も単に優しい少女としか描かれていなく、無個性に見える。
唯一、主人公の祖父は魅力的なキャラクターになる可能性があったと思うが、結局人間性が掘り下げられなかったために、中途半端なまま終わっている。
キャラクター小説にすらなり得ていない。よって、この項も評価は1。

舞台設定:1
この作品の舞台は2020年、東京。ということになっている。だが、そうした意味が見出せない。一章の地の文で説明されたきり、社会状況的にも、テクノロジー的にも、2020年を感じさせる描写は存在しない。また、地球温暖化が進み、亜熱帯に近い気候になっているらしいが、結局何も活かされることはない。第一、たった15年でそこまで気候が変わっていたら、生態系が壊れるどころの話では済まないだろう。沖縄と東京の植生や生物の違いを見よ。
敵となるナチスも、ナチスである意味が感じられない。結局、正体不明の寄生生物に寄生されて、主体はそちらになってしまっているのだから、わざわざナチスを引っ張ってくる必要があるのかどうか。
僕には魅力的な面を見つけられなかった。よって評価は1。

文章力:1
この作品を読んで読者が最初に気付くであろうことは、頁の上下がスカスカなこと。つまり、地の文が絶対に二行にまたがらないために、毎行一文字下がっているのだ。徹底して一文ごとに改行が入れられ、段落の意味を理解していないとしか思えない。
構成も最悪といえる。序章が後の展開に対して重要な意味を持っていない。その後も、キャラクターの項でも述べた通り、通常重要と思われる部分が掘り下げられないまま進行していく。シリーズ化を前提にしているのかも知れないが、全く「引き」にもなっていない。ネット上に溢れるアマチュアの作品でもこれより巧みなものはいくらでもある。評価は1。

装丁:2
ファンタジア文庫の標準的な装丁である。表紙はカラーイラスト、口絵のカラーイラスト数点、本編挿絵が数点。ただ、絵のレベルは褒められるレベルではない。人間の体の描き分けができていない。恰幅のいい老人と高校生の少年が同じ体型というのはどうだろう。よって、絵の出来の分マイナスして評価は2。

価格:1
本体価格620円。この本にそんなに払ったかと思うと腹が立ってくる。ページ数は334頁だが、前述の通りスカスカの文章なので、まともに段落付けをして構成し直せば、半分のページ数になるだろう。文句なく評価1。

総評
初回から最低の作品が現れた。ライトノベルに限らず、商業出版でこれよりひどい作品は読んだ事がない。何度も途中で放り投げそうになった。
こんなものが書店に並んでしまうのは大きな問題だと思う。編集者が仕事をしているとは思えない。普段あまりライトノベルを読んでいないのでよくわからないが、まさかこれが標準的なレベルではないと信じたい。

4月度エントリー作品『TATTOO BLADE』市川丈夫

2005-04-10 19:39:50 | 課題図書
というわけで始まった新刊文庫BLOGレビュー選手権 2005。4月度の僕のエントリーはこれだ。

『TATTOO BLADE』市川丈夫/富士見ファンタジア文庫
を選んだ。3月刊行で、やや時間が経っている感はあるが、一般文庫を含めても、「書き下ろし」「続刊でない」作品が非常に少なく、消去法に近い形での選出となった。
現在のところ、半分ほど読み進めているのだが、かなり血塗られたレビューになりそうである。初回と言うことで、今後の基準になるものであるので、それなりの点を付けたいところではあるのだが、今のところそれはかなり難しい情勢となっている。

というわけで、近日中にレビューをアップするので、しばしお待ちを。

『ネザーワールド-ロビン-』東佐紀/課題図書

2004-10-20 22:08:50 | 課題図書
ずいぶん間が空いてしまったが、久しぶりの課題図書だ。
今回は、『ネザーワールド-ロビン-』東佐紀著、集英社スーパーダッシュ文庫刊を俎上に上げる。あらすじ等はリンク先を参照されたい。
「第2回スーパーダッシュ小説新人賞」の佳作受賞作の世界観を引き継いだ2作目で、著者にとっては2冊目の著書、ということになる。
帯に大書された「冲方丁氏絶賛!」というコピーに釣られて手に取ったのだが、冲方氏は別に解説を書いているわけではない。帯コメントだけのようだ。

大まかに筋を言えば、少年と少女の冒険譚、なのだが、表題にある通り、本作の色を決定づけているのは物語が全て地下世界で進行すること。まさしく迷宮となった地下鉄網、巨大な地下都市。これらが物語を引っ張っていく。
ストーリーは王道・定番ではあるが、奇をてらわず、素直に進行することが、キャラクターやストーリーへの感情移入を妨げず、好感度は高い。素直に楽しむことができた。
人工の建造物でありながら、未だ未踏のフロンティア同然となっている地下世界というのも、いくらでも広がりを持たせることができる舞台だろう。

欠点もいくつか見られた。
最大の物は敵役の掘り下げ不足だろう。掘り下げが足りないせいで、敵の行動ひとつひとつに唐突感が漂う。終盤、事件の黒幕が冥土の土産よろしくペラペラと真相を話し出したのには興ざめだった。もう少し物語の進行に組み込んでいけなかったものだろうか。
もうひとつは、地下世界のエキスパートである主人公・ロビンと、さらに地下世界に精通している「地下鉄のクイーン」が揃って行動を共にしているがために、未知のはずの地下世界がまるで行動の障害にならないこと。単に整備された地下鉄網を利用しているだけのような感覚に陥ってしまう。せっかくどうとでも使える世界設定を生かし切れていないと感じた。

難点も確かにあるが、総体的には面白い作品だった。おすすめできる作品だと言える。キャリアを考えれば、この先伸びて行く余地は十分にある作家だろう。次作が刊行されれば、読んでみたいと思う。1作目も見つけて読んでみるつもりだ。

『涼宮ハルヒの憂鬱』を解く!

2004-07-23 23:24:04 | 課題図書
さて。『涼宮ハルヒの憂鬱』谷川 流著、角川スニーカー文庫 2003年、を遅ればせながら読んだ。
この作品、スニーカー大賞受賞作で既にシリーズ化されている人気作らしい。二瓶氏も取り上げていて、ずいぶん憤慨していたので、今更ながら手に取ってみた。

物語にはライトノベルやSFを読み慣れている者には新鮮さや驚きはないだろう。展開も結末も至って平凡、伏線はいくつも張ってあるが、結局本筋とは関係なくキャラクターを立てるためだけに存在するものの方が多い。
そう、やはりライトノベルの例に漏れずキャラクター無くして成立しない作品。曲がりなりにも大賞に選ばれているのだから、そういう物が求められているのだろうが、改めてそういう作品は自分の好みではないということを再認識した。キャラクターが魅力的であるのは確かに重要な事だが、それ以上のものをやはり見せてほしい。キャラクターを見せたいだけなら小説である必要は無い。


途中まではきっと結末はドラえもん最終回伝説よろしく主人公が精神病院のベッドの上、なんてのだろうと予想してたが・・・悪い意味でより無難な結末が選択されてしまった。

課題図書『遺伝子インフェルノ』/ありきたりの裏にあるモノ

2004-05-21 23:02:33 | 課題図書
前回からだいぶ間があいてしまったが、読了したので、つらつらと書いていこうと思う。

本作はSFである。がしかし、二瓶氏も指摘していた通り、SFとしてはありきたりで、正直新味はない。しかし、本作で注目すべきは、SFとしての道具立てではない。

それは、あくまで文明を肯定していることであると見た。一見、行き過ぎた人類文明に警鐘を鳴らしているかのようにも読めるが、そうでは無いと思えた。
最もはっきりとその事が表れた一編は、以下の様なものである。
文明を拒絶し、世間と隔絶され、採集生活をして暮らしていたムラの中で、一人の若者が蒸気機関を発明してしまう、というエピソード。

結局人間とは文明を形作るものであり、現在の姿は必然であると受け取れる。だから、人類は文明とうまく折り合いを付けることができる。無闇に恐れるなかれ、というようなメッセージだと思えた。

そして、ラストシーンでは人類は新たな可能性を見出す・・・
と、こういう風に書くと、余計陳腐に見えてしまうが、もちろん作品自体はそんなことはない。SFを敬遠している様な人にこそ、読んでもらいたい一冊だ。

5月の課題図書「遺伝子インフェルノ」

2004-05-13 11:58:01 | 課題図書
二瓶氏のblogでも報じられている通り、今月は「遺伝子インフェルノ」清水義範である。
まだ半分程度しか読んでいないが、1話での提示を受けた連作短編集となっている。内容的には未来予測モノとでもいうジャンルに分けられるだろうか。
もうしばらくで読み終えられるので、改めてまとめていきたいと思う。

4月課題図書『響ヶ丘ラジカルシスターズ』その3

2004-04-09 11:21:21 | 課題図書
さて、3回目である。ここで一旦総括してみたいと思う。

過去2回、否定的な事ばかり書いてきたが、決してこの作品が駄作だというわけではない。
最近の作品にありがちな読者に媚びたところは少ないし、伏線を全て解消してくれているので、読後感も良い。
つまるところ、私が21才・大学生だということを考慮しなければならない。ソノラマ文庫がターゲットとするであろう小中学生が読んだ場合は、すんなりと物語を追って楽しむことができるだろう。よほどの宝塚ファンでもない限りは読者も選ばない。完成度で一歩物足りないが、佳作だと言えるだろう。
ライトノベルも捨てたものではないと再確認させてくれる一冊だった。

4月の課題図書「響ヶ丘ラジカルシスターズ」その2

2004-04-07 22:25:22 | 課題図書
さて、2回目である。前回、「説明が冗長」という事に触れたのだが、必ずしも冗長な事自体が面白さをそぐ要因ではない。本作で問題になるのは、冗長に説明している内容が事実を下敷きにしている部分が大半だからである。つまり、「フィクション」の部分がふくらまないのだ。
最も顕著に出ているのが、主人公達の在学する「音校」の描写が、実在する「宝塚音楽学校」そのままであり、敵組織との対比で存在感が非常に弱くなってしまっている。
その割に敵組織を初めとする筋立ては荒唐無稽(悪い意味ではない)なので、音校だけが物語から浮いた存在になっている。
いっそもっと独自色を出して、著者の創作を入れてしまった方が良かったのではないかと思えてしまった。