双神の社の中では、旅の疲れに身体を投げ出し寝入っている一樹の姿があった。
その横でその寝顔を覗きこんでいたなみづちがであったが、いなづちを振り返った。
「いなづち・・・もう・・堪らぬに。なんとかしてくれねば」
なみづちにぐずぐずと文句を言われるまでもない。
いなづちとて焦っているのである。
「いなづちは良いわの。
波陀羅がシャクテイを送りつけてきおるに・・・我には何もない」
「そうは言うても、快楽の高みだけのシャクテイに、どれほど餓えが満たされよう」
京の都に降立った波陀羅が双神との伝手を得るために、
その身を鬻ぎマントラを唱えシャクテイを送りつけ始めていた。
それを、
いなづちは確かに受け止めていた。
「何も・・・無いよりは良いわ。我は餓えを忍び、
この三月、一穂を差配して
政勝とかのとのシャクテイを一穂の中に植え込んでみたのは何の為じゃ?」
「我とて・・同じじゃろう?御前を思わばこそ、かのとのシャクテイを掠め取らずに
一穂の目覚めに廻したに」
「もう、良いわ。あれらに、マントラを唱えさせるは無駄じゃ」
「なれど、あれほど大きなシャクテイをもたらす男は他にあるまい。
その上に、一穂が、かのとが政勝に寄せる思いが重なるに
あれを吸えばどんなに満たされる事やら」
「なんで、我等は魂に寄生せねばならぬ。
なんで、身体だけのシャクテイだけで餓えが満たされぬ」
我が身の疎ましさを呪い呟くいなづちであった。
深き思いのシャクテイこそ魂から派生されるのである。
そのシャクテイを求め、独鈷さえ手放したのであるが、
「だいたい、独鈷を手放さねば良かったに、あれも性の強い男じゃったに」
と、いかづちを責めるの。
「仕方なかったろうが。ここしばらく、我等が餓えは常軌を逸しておる。
独鈷が波陀羅を好いておったからこそ深きシャクテイを取れると思うたしの。
それに思わぬ貢物も遣してくれたでないか」
「まあの」
横に寝入る一樹を見詰めていた、いなづち、なみづちだった。
「我は政勝を諦める気はない。一樹を使ってみようと思うておる。
が、その前に御前の餓えを満たして貰おうと思っておる」
「どうするというのじゃ」
「波陀羅が一樹に寄せる思いを・・・機軸に二人をまぐわせてやればよい・・に」
「一樹が深き思いを波陀羅にもつとは思えぬが・・・」
「ふん。魂の母親じゃに。己の知らぬ所で波陀羅を慕うてしまうわ」
「成る程。当座は、それで凌ぐとして政勝をどうやって手にいれるつもりでおる?
あの絶好の機会を取りのがしてから、
政勝の思念を振る事もせず一樹を呼び付けるわ、我に帰って来いと言うわ」
「其れじゃ。なんで・・・政勝があの時我に帰ったかと思うての」
陰陽師の読みの通り、シャクテイを伝えるには両方の性を知らねばならぬ事であり、
あの時双神は二人の思念を操って
政勝が一穂の男の性を味わうたその高みの中で姿を現し
マントラを口伝させる手筈であった。
そのままマントラの恐ろしいほどの高揚の高みに引きずり込めば、放っておいても
一穂は政勝からの高揚を求めるようになり、
政勝はそれに飽き足らずマントラをかのとに教え込み、
自からもマントラを唱えずにおけぬようになり、
双神は一穂とかのとと政勝の大きく深いシャクテイを手に入れられる筈であった。
「傍をちょろちょろしておる陰陽師のせいではないのか?」
いなづちの言葉に
「できるものか。陰陽師風情にできる事でない」
「ならば・・・・なぜ?」
「よほど、かのとへの思いが深いか、一穂への敬いが強いか・・・」
「ほ!?ならば尚の事・・・諦めてはならぬ」
「じゃろう?」
「ああ」
よもや、黒龍の守護があると読み取る事ができない双神が出した結論は、
更に政勝という男への執着を強める事になった。
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