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憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

白砂に落つ・・16

2022-12-16 09:33:23 | 白砂に落つ
佐吉の最後を見届けた人の群れが波を退くように消え去ってゆくと、定次郎と弥彦は役人詰め所に向かい歩きだした。 がくりと肩を落とした弥彦は佐吉の死の前と後でいくつも老け込んだかのようにみえた。憔悴とせめぎが、弥彦をとらえている。 「弥彦。佐吉の亡骸をお千香の横にうめてやれねえかなあ」佐吉は身寄りも無い。このままでは、野ざらし同様に阿弥陀淵の投げ込みにすてられ、無縁仏になるしかない。佐吉の亡骸をゆず . . . 本文を読む

白砂に落つ・・17

2022-12-16 09:33:08 | 白砂に落つ
定次郎の菩提寺である寒山寺のお千香が眠るに傍らに葬られた。 本来ならば、とが人を墓所にほうむってやることなど、断りをいれるはずの住職であったが、人づてにきいた佐吉の最後の絶叫があまりにあわれでもあった。 お千香さんの横でねむらせてやれれば、佐吉の魂も、やすらぐであろう。お千香さんもそうのぞんでいるだろう。住職はそうもかんがえた。 だが、残された家族。定次郎や定次郎の妻。つまりお千香さんの両親 . . . 本文を読む

白砂に落つ・・18

2022-12-16 09:32:52 | 白砂に落つ
お千香の墓に線香を手向けると続けて佐吉の墓に手を合わせる男を見つけた弥彦が子供を抱いたままちかよって深々と頭を下げるのを見ていた定次郎である。「弥彦。どなたさまだろう?」 定次郎が川端を知らないのは無理もない。佐吉が入牢してからも、一切佐吉の下に出むくこともなかったし、川端も佐吉の黙秘のわけを思うと定次郎に事情をきくこともやめていた。 定次郎は今日、初めて佐吉を取り調べた川端と顔をあわせたので . . . 本文を読む

白砂に落つ・・19

2022-12-16 09:32:36 | 白砂に落つ
定次郎が弥彦と二人で佐吉の亡骸を下げ渡してくれと願い出てきたときから川端の胸の中に妙なしこりを感じていた。 それがなにであるか、わからないまま家に帰ってぼんやりと庭を見ていた。 家内のお春が「おまえさん。また、なにか、かんがえてなさるね」と、茶を入れてくれたものをずずっとすすると、ふと、お春に佐吉のことを漏らした。 佐吉がお千香さんの不貞を隠し通したことには、触れずに、「佐吉って男はよほど、 . . . 本文を読む

白砂に落つ・・20

2022-12-16 09:32:18 | 白砂に落つ
川端は自分の中に突然沸きあがってきた推量をもう一度、さらえ直してみた。 佐吉のもともとの性分をいうなら、お春の云うとおりにほれた女房を殺すだいそれた男ではないと思った。 なぜなら、そんな性分の男だったら、定次郎がお千香の傍らに埋めてやるわけがない。また、、傍らにうめてやらずにおれなかったのは、お千香の不貞の挙句の佐吉の狂乱だったと定次郎が知ったからだろう。 だが、弥彦に子供を頼むといったのが . . . 本文を読む

白砂に落つ・・21

2022-12-16 09:32:03 | 白砂に落つ
川端が門前で涙をぬぐっている。 その後ろから住職が声をかけた。「川端さん・・・」牢役人である、川端は近在では、良く知られている人間である。川端がとが人を調べるときにまず、自分の名前を名乗る。「俺は川端という。山端にすんでいるが、川端という」この名乗りは世間の人の耳に有名らしく、時折、「山端の川端さんですね」と、問われる。だが、住職はそんなたしかめをしなくても、川端が川端であることをしっていたし、 . . . 本文を読む

白砂に落つ・・22

2022-12-16 09:31:48 | 白砂に落つ
川端がどこまで、はなしてよいものか。どこから、はなしてゆけばよいもか。迷っていると、住職のほうから、さきに口をひらいた。「実は・・・私はお千香さんの死は自害だったのではないかとも、考えられるのではないかと、おもっているのです」その根拠というのが・・・。 「ご存知のように寺のまかないは檀家衆の寄進でなりたっているのでございますが、私の口を潤わすことばかりが寄進ではなく・・・」蝋燭や線香という寺で使 . . . 本文を読む

白砂に落つ・・23

2022-12-16 09:31:32 | 白砂に落つ
「お千香さんと佐吉は本当に仲のよい夫婦だったのですよ」先祖の墓に参る佐吉夫婦を見るたびに住職はそう思った。仲のよい夫婦というのはともに並んで歩いているだけで華が咲いたように明るい風をそよがせる。「佐吉がお咲ちゃんを授かったときにも佐吉はずいぶんよろこんでいたものですよ」柔らかな頬に佐吉の頬をすりつけ、もみじの手を佐吉の手でくるんで、墓参りに来たときも佐吉がお咲をだいていた。 だが、お咲が成長して . . . 本文を読む

白砂に落つ・・終

2022-12-16 09:31:13 | 白砂に落つ
「どういうことでしょう?」川端の目の中に小さな憤りが見える。しらせてくれれば、佐吉を処刑に追い込むことは回避できたかもしれないというのに・・・。「お千香さんがしんだあとに、佐吉には生きていく理由が無かったでしょう・・・子供は弥彦の子・・・。お千香さんはいない・・・。ほうっておいても、佐吉はお千香さんの後をおったとおもいます」それが、捕縛された・・・。「佐吉は自分が殺したといったんですよね?私はそれ . . . 本文を読む