玉川上水の木漏れ日

 ワヤン・トゥンジュク梅田一座のブログ

■赤い亀の物語

2016年09月26日 | アート

「レッド・タートル」より(©スタジオジブリ)。

なかなか風邪が直らず、土日は仕事を休んで、まったく寝込んでいた・・・。今回、どうも後を引く。

ともあれ、先日、ジブリの新作「レッド・タートル」を観た。
セリフは一言もない。BGMや効果音も最小限。登場人物も最小人数。ストーリーも淡々と最小限の出来事しかおきないし、表情なども最小限の表現、色彩も最小限だ。そう、全体の極端なまでのミニマルさがいい、といえばいいだろうか。
それに、背景描写など自然の描写はともかくギリギリまで美しい。
冒険活劇の好きなジブリファンや幼児には向いているとはいえないけれど、一言でいえば、よく出来ている。
でもその分、これは、いわゆるロードショー用の映画館ではなく、ヨーロッパのマニアックなアニメなんかをやるようなミニシアターなど単館上映向きだ。

これなら、ジブリ嫌いのダランも観る気がするのでは?


「レッド・タートル」より(©スタジオジブリ)。
このキャッチコピーというか、副題のようなものが重要だ。



ポール・ゴーギャンの最晩年の作品。
「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」(ボストン美術館蔵)。
問題意識がいくつくところは、やっぱりここなんだろうか・・・。



テーマも考えようによってはいろんな解釈ができるだろう。
お伽噺のようでもあり、哲学的寓話のようでもあり、実存主義文学のようでもある。
あまり詳しく説明すると、ネタバレとか言われそうなので、「最小限」にしておきますが、ストーリー展開は、そう複雑ではない。

ある一人の男が、海で遭難し、小さな無人島の砂浜に打ちあげられる。そこはウミガメの産卵する砂浜であった。
その後、男は途方に暮れるが、それでも果物を見つけ、水源を見つけ、なんとか生き延びようとする。
ある日、イカダをつくり、外海へ出ようとするが、そこへ一頭の「赤い海亀」がやってきて、それを阻止する。
また別の日、海岸に現れたその「赤い海亀」を男は仰向けに転がして殺してしまう。が、男はそれを後悔し、海の水を運んで来たり、必死に生き返らせようとするが・・・。
何日かして、その「赤い海亀」から美しい女性が現れる。その女性は誰なんだろうか・・・、神か幻か、海亀の化身なんだろうか(出た化身)。
いつしか、男は、海亀を殺したことを謝罪する。そして、その後、男女は愛し合い、子供が生まれるが・・・。


「レッド・タートル」より(©スタジオジブリ)。


「レッド・タートル」より(©スタジオジブリ)。


着るものすらない絶海の孤島で、男が最も大切にしたものとは何か。
究極のテーマを挙げろ、というなら、それはおそらく「愛」ではないかとおもう。
旧石器時代のような生活環境のなかで、人間には、霊長類として動物とは異なる進化した意識や喜怒哀楽、生きる意味や目的、幸福感の芽生えのようなものがあったはずである。動物的で「利己的な遺伝子」の戦略以外に、芽生えた「ヒト」であることの「個」としての感性があるはずである。

ミニマル・ライフというなら、物や道具や言葉もない、これ以上ないであろうミニマルに削ぎ落とされた生活と環境のなかで、人間として最後に残るもの、それが「愛」ではないか、ということだ。
「大切なものは目に見えない」ということでもある。
男は、最後に幸福であったのだろうか・・・。

「愛」というのは、実はもっと昔、類人猿の時代からあるという説がある。
それを実践してみせてくれているのが、コンゴにのみ生息する「ボノボ」という類人猿である。
長くなるので、詳細は次回へ回すれど、「愛」というのが、猿の時代からあるなら、脳に刷り込まれた歴史は古い。
もしかしたら、それは、人間を人間たらしめるもうひとつの見えない要素なのではないかとすらおもう。


ボノボ。争いを嫌う平和主義。すべてはスキンシップでコミュニケーションをとる。
研究者は、彼らの行動から「愛」と「道徳(倫理)?」の芽生えをとらえている。


それに、「人間と亀」が主人公というのは、「浦島太郎」を連想させるものがある。
浦島太郎は、前にも言ったが、その物語としてのルーツがわかっていない。それに、「お伽草紙」にあるように、「鶴と亀と蓬莱山」が隠れたテーマなら、それは中国との関係も無視できない、ということになる。
なら、当然、インドともつながっているわけで、極論をいえば、この「亀伝説」は、インドの神話や宇宙構造、ウィシュヌともつながっているのかもしれない、といえなくもない。
なら、ワヤンとも遠くないね(ちょっと強引だけど)。

いったい、人間は、いつから亀にどういう根源的象徴イメージを抱いてきたんだろう・・・。


ウィシュヌの化身、亀神のクールマ図(インド)。


ガルーダの彫刻(バリ島)。
ウィシュヌの乗ったガルーダの下に、ナーガと亀神クールマがいる。



ま、そんなことが頭をよぎりながら、この映画を観た。(は/263)


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