感想:叙述トリック短編集

2023-06-14 07:05:41 | ミステリ




叙述トリック短編集 似鳥鶏 2018年作品



叙述トリックといえば。
意図的に読者へ情報を隠すことで事実誤認を起こさせるトリック。

「男性だと思っていた人物が実は女性だった」とか
「セリフはないが別な人物が実はその場にもう一人いた」といったあたりがメジャー。

一時期ミステリ界隈でものすごく流行った要素であるものの
当然、本格推理のファンからは蛇蝎のごとく嫌われがちで、
よほどうまくやらない限りは自分も大嫌いなネタではあるのだけれど。




最初から叙述トリックであることを明確にしておけば
それはパズル的な意味合いを持つ、作者との知恵比べになりうる。
……ということを綾辻行人の『どんどん橋、落ちた』で学んだ。

大抵のミステリ作家がそうであるように、この作者も重度のミステリオタクで
叙述トリックに対する批判すら百も承知でこの短編集に挑んでいる。
「読者への挑戦状」と銘打った作品のまえがきでその覚悟が見て取れる。

だからこその「叙述トリック短編集」という潔いタイトル。
石黒正数の「帯をずらすと別な絵になる」だまし絵の装丁。超いいじゃん。
この意欲はぜひ正面から受け切らねばならん!!




というわけで、収められた短編は6篇。



『ちゃんと流す神様』

とあるオフィスの女子トイレ。
トイレが詰まって水が溢れたことで使用禁止になっていたはずが、
いつの間にか詰まりが解消されたうえ、床も綺麗に掃除されている。
しかしトイレの前には常に人の目があった。
不可能犯罪ならぬ「不可能善行」。誰がどうやって行ったのか?


1話目だからジャブ的な話なのだろうと高をくくったら見事に裏切られた!!
叙述トリックとしては某有名作品と同じネタだけれど
奇抜な事件に意識を引っ張られてまったく気づかなかったw
叙述トリックがしっかり謎解きのカギになっているのも上手い。



『背中合わせの恋人』

大学生の堀木輝はSNSで魅力的な風景写真をアップする平松詩織に憧れている。
平松詩織は入学直後に道案内をしてくれた先輩の堀木輝に憧れている。
写真同好会を通じて二人が会う機会を得たものの、そこで事件が起こる。
同好会の会長が現像しようとしていた写真が現像フィルターのすり替えによって
台無しになってしまっていたのだった。


叙述トリックのお手本のようなネタ。
堀木と平松の視点が交互に描写され、次第に同じ場所に向かっていく。
となればまあ「叙述トリックとしてはこのパターンだな」と悟らざるをえないw
小説としての読後感がスッキリしてて、青春小説としても良作。



『閉じられた三人と二人』

舞台はアメリカ。
ガソリンスタンドを襲撃した四人の強盗団が逃げ込んだ山荘。
そこにいた二人の日本人を縛り上げて強盗の成功に対する祝杯をあげていたが、
しばらく席を外した一人が崖下で死体となって発見される。


何か書こうとすると大概ネタバレになってしまいそうな困った短編。
レイプのくだりで叙述トリックを見抜けたのがさすが俺。
しかし、これを「叙述トリック短編集」に入れていいものかどうかちょっとな。
事件の解決に対する伏線もなくて、なんで急にこんな投げやりなネタを入れたのか
なんとも判断に困る。



『なんとなく買った本の結末』

お客が入らず暇なバーテンダーとアルバイト。
暇つぶしに最近買った小説の結末をクイズとして出題する。


いわゆる作中作の推理クイズのような一篇ではあるのだけれど、
叙述トリック自体は一瞬で読めてしまった。
割と多数の読者が一発でわかるのでトリックとして機能してないな。
しかも肝心の事件のほうのトリックがショボすぎてがっかり。



『貧乏荘の怪事件』

とある大学そばの下宿。ボロボロながらも家賃の安さのおかげでつねに満室。
住んでいるのは様々な国籍の若者たち。
日本人、中国人、タイ人、セネガル人、インドネシア人。
ある日、中国人の李が大切にしていた「海参」が何者かに食べられてしまっていた。


これはもう叙述トリックにお誂え向きの舞台。
作中で堂々とドでかいヒントを出していて、
ミステリファンならしっかりそのヒントを拾わねばならなかったのに
適当に読んでいたせいですっかり騙されてしまった。
学生たちのダラダラ感がなんともリアルで、自分の学生時代と重なって懐かしかった。



『ニッポンを背負うこけし』

探偵事務所に訪れたのは政界の重鎮、俵田幸三郎。
全国各地の銅像にいたずらをして世間を賑わせる
"HEADHUNTER"を捕まえて欲しいという依頼だった。
次のターゲットは温泉駅の中にある高さ6.7メートルの巨大こけし。
犯行の瞬間を捉えるべく、24時間体制の監視を実行する。


連作最後の作品として、叙述トリックも最大のネタ。
……なのだけれど、まえがきで作者が特大ヒントを出していたせいで
肝心のネタがあっさりわかってしまった。せっかくの大一番なのに……!!
しかも事件の犯行のトリックがひどい。
でも作品全体のバカバカしさでうまいこと誤魔化してた感じがする。愛嬌って大事。




この作者の小説は初めて読んだけれど、とても読みやすい。
ライトなまえがきから想起されるとおりのライトな文体で一貫していて
肩肘張らずに読めるのが良かった。

しかし作中で起こる事件のトリックがショボいのが残念。
叙述トリックに集中させるためにワザとなんだろうけどな。

なんだかんだで楽しかったので第二弾を出してくれれば買う!!
でも現時点で5年も音沙汰なし。残念。


満足度(星5個で満点)
文章   ★★★☆
プロット ★★★★
トリック ★★

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