ハンセン病問題に関する情報、思ったことなど
ハンセン病問題ノート
西日本新聞の連載<5完>「~再発防止検討会」
西日本新聞
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「壁」は消えたか・らい予防法廃止10年<5完>
教訓 「将来」を論じる前に-連載
2006.04.04
「被害者の平均年齢は七十八歳。一分一秒を争う救済策も少なくない」「具体的行動が大事ではないのか」-。
三月二十九日、東京・霞が関の厚生労働省に近いビルの一室。この日発足した「ハンセン病問題に関する検証会議の提言に基づく再発防止検討会」は、複数の委員から厳しい発言が相次ぐ、異例の幕開けとなった。
「らい予防法」に基づくハンセン病患者強制隔離政策の誤りを追及した国家賠償請求訴訟で、熊本地裁が国の責任を認めたのは二〇〇一年五月。判決確定を受け、厚労省の設置した「ハンセン病問題に関する検証会議」が昨年三月、最終報告書で明示した取り組み、それが再発防止検討会だ。
元患者の代表や医療関係者、法学者ら委員十九人に課せられた使命は、問題の教訓を今後の行政施策に生かし、国家による人権侵害が再び起こらないようにする具体策の提示。厚労省の戸刈利和事務次官(58)は「厚労行政はもとより医療関係者を挙げて、二度と起こさないよう気持ちを新たにする」と決意を見せる。
だが、少なからぬ委員が、議論に入る前にやるべきことがあると、くぎを刺したのだ。
□□□
らい予防法廃止(一九九六年四月)で、強制隔離の法的根拠はなくなり、各地の国立ハンセン病療養所に入所を余儀なくされていた人々は、退所して社会生活を営めるようになった。が、知覚まひなどハンセン病の後遺症に関し、一般の医師の理解は浅く、医療態勢は不十分とされる。
やむを得ず療養所にとどまる人たちも、先立った入所者の遺骨が約一万六千柱も引き取られることなく施設内で眠る現実に、自らの行く末を重ねる。退所者が療養所内で入院治療できる制度や、療養所長期存続の保証、心のケアなどの問題も未解決。いずれも厚労省が手掛けるべき課題だ。
「将来の再発防止策はもちろん重要だが、現実の被害を放置して教訓を論じられるはずもない」。検証会議の副座長として最終報告書を取りまとめ、今回検討会でも委員を引き受けた九州大法学研究院の内田博文教授(59)は、そう指摘する。
厚労省が、検証会議の最終報告書を踏まえ、検討会を設置するまで一年もかかった。検討会の結論を出す目標時期も設定していない。「問題の教訓を生かし、まず変わるべきは国なのに」。委員たちは、厚労省のやる気をいぶかる。
□□□
旧厚生省でハンセン病担当部署の幹部を務めた反省から、退官後にらい予防法廃止に立ち上がり、国賠訴訟の証人として「国の過ち」を明言した大谷藤郎さん(82)=国際医療福祉大総長=は、こうした現状を「責任を感ずべき者がそれを自覚せず、責任も取らず、あいまいにしているところにハンセン病問題の本質がある」と憤る。
「『権威者』とされた人たちの独善的で非科学的な知見が、国のハンセン病政策に大きな影響を与えた」(検証会議最終報告書)結果、引き起こされた深刻な人権侵害。それは、薬害エイズ患者や精神障害者などを取り巻く問題とも通底する。
らい予防法の過ちに気付きながら、それを放置し続けてきた医療・行政の悪弊を葬ってこそ、ハンセン病の教訓は生きる。生あるうちの名誉回復を求める被害者や家族にとって、問題は現在進行形だ。残された時間は決して多くない。
(東京報道部・久永健志)
=おわり
× ×
引き続き、連載「ハンセン病-インドからの報告」を掲載します。
◇
▼ハンセン病問題に関する検証会議 深刻な人権侵害を引き起こした国のハンセン病政策を科学的、歴史的に検証する目的で、2002年10月から05年3月まで設置された厚生労働省の第三者機関。委員は元患者代表や学識経験者など13人。最終報告書に、ハンセン病のみにとどまらぬ患者・家族などの権利法制化や、人権擁護機関の創設、人権教育の強化など9項目の提言を盛り込んだ。
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「壁」は消えたか・らい予防法廃止10年<5完>
教訓 「将来」を論じる前に-連載
2006.04.04
「被害者の平均年齢は七十八歳。一分一秒を争う救済策も少なくない」「具体的行動が大事ではないのか」-。
三月二十九日、東京・霞が関の厚生労働省に近いビルの一室。この日発足した「ハンセン病問題に関する検証会議の提言に基づく再発防止検討会」は、複数の委員から厳しい発言が相次ぐ、異例の幕開けとなった。
「らい予防法」に基づくハンセン病患者強制隔離政策の誤りを追及した国家賠償請求訴訟で、熊本地裁が国の責任を認めたのは二〇〇一年五月。判決確定を受け、厚労省の設置した「ハンセン病問題に関する検証会議」が昨年三月、最終報告書で明示した取り組み、それが再発防止検討会だ。
元患者の代表や医療関係者、法学者ら委員十九人に課せられた使命は、問題の教訓を今後の行政施策に生かし、国家による人権侵害が再び起こらないようにする具体策の提示。厚労省の戸刈利和事務次官(58)は「厚労行政はもとより医療関係者を挙げて、二度と起こさないよう気持ちを新たにする」と決意を見せる。
だが、少なからぬ委員が、議論に入る前にやるべきことがあると、くぎを刺したのだ。
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らい予防法廃止(一九九六年四月)で、強制隔離の法的根拠はなくなり、各地の国立ハンセン病療養所に入所を余儀なくされていた人々は、退所して社会生活を営めるようになった。が、知覚まひなどハンセン病の後遺症に関し、一般の医師の理解は浅く、医療態勢は不十分とされる。
やむを得ず療養所にとどまる人たちも、先立った入所者の遺骨が約一万六千柱も引き取られることなく施設内で眠る現実に、自らの行く末を重ねる。退所者が療養所内で入院治療できる制度や、療養所長期存続の保証、心のケアなどの問題も未解決。いずれも厚労省が手掛けるべき課題だ。
「将来の再発防止策はもちろん重要だが、現実の被害を放置して教訓を論じられるはずもない」。検証会議の副座長として最終報告書を取りまとめ、今回検討会でも委員を引き受けた九州大法学研究院の内田博文教授(59)は、そう指摘する。
厚労省が、検証会議の最終報告書を踏まえ、検討会を設置するまで一年もかかった。検討会の結論を出す目標時期も設定していない。「問題の教訓を生かし、まず変わるべきは国なのに」。委員たちは、厚労省のやる気をいぶかる。
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旧厚生省でハンセン病担当部署の幹部を務めた反省から、退官後にらい予防法廃止に立ち上がり、国賠訴訟の証人として「国の過ち」を明言した大谷藤郎さん(82)=国際医療福祉大総長=は、こうした現状を「責任を感ずべき者がそれを自覚せず、責任も取らず、あいまいにしているところにハンセン病問題の本質がある」と憤る。
「『権威者』とされた人たちの独善的で非科学的な知見が、国のハンセン病政策に大きな影響を与えた」(検証会議最終報告書)結果、引き起こされた深刻な人権侵害。それは、薬害エイズ患者や精神障害者などを取り巻く問題とも通底する。
らい予防法の過ちに気付きながら、それを放置し続けてきた医療・行政の悪弊を葬ってこそ、ハンセン病の教訓は生きる。生あるうちの名誉回復を求める被害者や家族にとって、問題は現在進行形だ。残された時間は決して多くない。
(東京報道部・久永健志)
=おわり
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引き続き、連載「ハンセン病-インドからの報告」を掲載します。
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▼ハンセン病問題に関する検証会議 深刻な人権侵害を引き起こした国のハンセン病政策を科学的、歴史的に検証する目的で、2002年10月から05年3月まで設置された厚生労働省の第三者機関。委員は元患者代表や学識経験者など13人。最終報告書に、ハンセン病のみにとどまらぬ患者・家族などの権利法制化や、人権擁護機関の創設、人権教育の強化など9項目の提言を盛り込んだ。
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