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「晩年のボーヴォワール」

        ↑妹エレーヌ描く若き日のシモーヌ・ド・ボーヴォワール

クローディーヌ・セール著 門田眞知子訳 藤原書店 1999年刊

原題 Simone de Beauvoir le mouvement des femmes, mémoires d'une jeune fille rebelle<ボーヴォワール 女性運動、反逆する娘の回想>

この原題が示すようにむしろ自叙伝の観がある。

著者の母親は、著者を産む直前(1949年)に新刊の「第二の性」を読んで、いたく感銘を受け、ことあるごとに娘に「なぜボーヴォワールを読まないの?」と言った。16歳の時「第二の性」を読んだものの、さほど熱狂もしなかったのは、いつも母親の言っていることとあまり変わらなかったからだ。

彼女はパリ・セーヌ右岸16区のお嬢さん育ちで、モリエール女子高に通い、当時の若者らしく毛沢東思想に夢中になる。66年11月の、著者17歳の誕生日には、ヴェトナム戦争反対集会でサルトルの講演を聞く。

「18歳から25歳までの若者たちでぎっしり埋め尽くされた会場…若者たちは感激の叫びをあげ、手をたたき足を踏み鳴らした。それはビートルズのコンサートではなく、ただ単にサルトルが登場しただけなのであった。哲学者の中に、今日のポップ歌手やサッカー選手たちが見せるような魅力を持っていた人物がいた時代のことであった。」

1967年パリ大学ナンテール校(マクロンも卒業生)に進学する。左岸のソルボンヌを夢見ていた彼女は、出来立てで建設資材だらけのキャンパスや、コンクリートの建物、大教室での、高校とかわりばえしない講義に失望する。パリ五月革命がナンテール校から始まった背景には、こういう事情があったのだろう。

彼女は20歳から24歳まで、女性解放運動(MLF)に献身的にかかわる。そこは30-40代のメンバーが主であり、彼女は最年少だった。そして伝説の人物と思っていたボーヴォワールに、彼女の家で出会う。62歳だった。

中絶の合法化運動のための「私は中絶をした」と言う343人宣言。カトリーヌ・ドヌーヴやデルフィーヌ・セリーグ、シモーヌとエレーヌのボーヴォワール姉妹、アニエス・ヴァルダ、シモーヌ・シニョレなどが署名した。1971年4月5日のル・ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール誌上である。おかしいのは、全くその経験がないのに21歳の著者も署名していることである。彼女は運動のためならと、参加したらしい。お父さんは数学者のジャン・ピエール・セール(27歳の最年少で1954年度フィールズ賞を受賞し、今もその記録は破られていない)だが、「お前は嘘をついたのか」と怒ったそうである。娘は、この反応にとまどい、彼がプロテスタントの家柄であるからかも、と推理している。

彼女はシモーヌの妹エレーヌとも親交を深め、シモーヌの葬儀の時、泣き崩れるエレーヌを抱きかかえる。

彼女がボーヴォワールの本に出会ったのは母親の手引きであったように、ボーヴォワールと母親は、彼女にとっては同じ尊敬すべき先達の女性に見えていたようだ。

ボーヴォワールは「2歳にしてすでに妹に対して母親だった」とか(単に面倒見がよかったというだけのこと)わかい運動家たちを娘(フィーユ)と呼んでいるとか(単なる呼び方)言っているが、「母」というものを絶対的な善としておきたいのだろう。(著者の母はエコール・ノルマル女子校を出て、化学の研究者となり、ついには学長になる)子供がいなくても、精神的に母性的だからとボーヴォワールを「擁護」するなんて。

ちょっと寄り道するが、桐島洋子は、あるアンケートで愛読書にボーヴォワールの「娘時代」を挙げている。がTVで「自分もボーヴォワールのように未婚だけれど、子供がいる分、ボーヴォワールよりもえらいんだ」と娘に語っていたが、全くの的外れ。この桐島洋子は、いかにも女性解放の最先端にいる如く装いながら子供のいることを誇り自慢するなんてその辺のおっさんおばさんと変わりがない。ボーヴォワールは母性を神聖視することこそ、女性解放のガンだとしており、それもわからないで愛読者が聞いてあきれる。

彼女が遺伝も環境も飛び切りよく、理解に満ちた両親のもと、一人娘としてパリ16区に生立ち、6歳で米国プリンストンの小学校に、14歳でモスクワやキエフで語学研修するなど知的特権階級とでもいうように恵まれていたために、そういう人間特有の、世間知らずな甘さと言うか、おめでたさを、感じるのであるが、一方で、そういう人間だからこそ、時代に先がけた運動に飛び込めたのだともいえる。ボーヴォワールの理解には、限界があるにしても、多くの逸話に彩られた本として、一読の価値はある。

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