goo

映画「ルートヴィヒ」


2012 独 143分 DVD鑑賞 監督 マリー・ノエル&ピーター・ゼアー 
出演 ザビン・タンブレア エトガ-・ゼルゲ 原題≪LUDWIGⅡ≫

「バヴァリアの狂王」と呼ばれたルードヴィヒ2世(1846-1896)の、18歳で即位してから死ぬまでを描いた映画。

72年版「ルートヴィッヒ」ではルキノ・ヴィスコンティ監督が、寵愛するヘルムート・バーガーを主役に据えているが、かれは、顔立ちが男っぽくごつごつしている。重苦しく、悩み苦しむ王様の印象が強い。

同じ28歳であるが、こちらのザビン・タンブレアは細身で草食風。
ルーマニア出身とのことで、切れ長で離れた目は、日本人の感覚では美しくないかも知れないが、この映画を作ったババリアの人から見ると、異国風で素敵なのだろう。何しろローエングリンは白鳥の騎士なのだから……。

彼の病気は映画では「偏執症」だが澁澤龍彦の「異端の肖像」では精神分裂病(統合失調症)となっている。

18歳と言えば本当に純粋な時期。まして芸術愛好家のかれに、軍備増強とか政治的駆引など耐えがたかったろう。
「母源病」のかれは、父の愛を求めていたが18歳で死別。父恋がワグナーとか逞しい下賤な男性への愛に変わり、それを自分自身に厳しく禁止するという二律背反に苦しんだ。求めつつ拒否することで、相愛の相手とも結ばれない。
弟のオットーは、一見すると次男坊らしい逞しさを持っていたが、従軍体験が災いしついには狂ってしまった。
兄弟共に狂ったのはもしかすると、王室同士の結婚が重なった結果、血が濃くなったせいかも知れない。

ヴィスコンティの芸術至上主義と正反対の、常識人の目から見た王様像。
財政を破たんさせた王様の唯美主義も、ノイシュバンシュタイン城などの遺産が観光資源になっている。その王への庶民の感謝と敬愛が、この映画を作らせたのかも知れない。多くの労働者たちの目から描かれた青年王の姿は、湖上をゆく白鳥のように美しい。

晩年の変貌の強烈さは、同一俳優では担いきれず、別人が演じたのはもっともだ。
この両者を演じられたヘルムート・バーガーは、だからこそ、わたしには苦手なのである。

ルートヴィヒ2世はワグナーによれば音楽を全く理解せず、城の内部を見ると、美術の趣味もあまり良くない。
ただ彼の青春の熱情(芸術への、ワグナーへの、逞しい厩番への恋)は命がけで、それだけは美しかった。高良武彦の「性格学」に分裂質者(シツォイド)は時として高貴さを感じさせるとあったが、その一例のようである。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 「話を聞かな... 母校 »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。