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ゲーテ


今回のゲーテというテーマは、自分でもなぜ選んだのか分からない。

そもそもゲーテと私はあまり縁がなかった。小学生のとき彼の作詞の「野ばら」を合唱で歌い、大学でそのドイツ語の歌詞を習ったことと、「美しき魂の告白」「若きウェルテルの悩み」を読んだのと、ドイツ文化センター別名「ゲーテ・インスティテュート」でドイツ映画を見たことくらいだ。

私の父が初めて外国に旅行した時ゲーテ博物館に行ったと聞き私も行く気だったが、2回訪独して、ミュンヘン、ハイデルベルグ、リュベック、ケルンには行ったが、ゲーテの故郷フランクフルトには行きそびれた。

ゲーテと言う名は泰山のごとくどっしりしている。「ゲーテ・インスティテュート」の別名が「ドイツ文化センター」であることからも、ゲーテすなわち文化とか教養を意味していることがわかる。

図書館で「詩と真実」「若きウェルテルの悩み」「親和力」「ファウスト」「ウィルヘルム・マイスターの修業時代」と「遍歴時代」「イタリア紀行」エッカーマン著「ゲーテとの対話」などを手に取って読もうと試みた※。詩は、100~150種類の曲がつけられたという「野ばら」「君よ知るや南の国」「黄昏は空より降り」「美しい五月」「魔王」「魔笛」記憶に残るものが多い。しかし、詩は翻訳次第。たとえば「野ばら」なら「わらべは見たり」の近藤朔風の訳以上の感銘を、受ける新訳があると思えない。

原則として原典に当たる主義だが、今回はやはり難しく、解説に頼ることにした。

ヘルマン・ヘッセの「荒野の狼」に彼の面影が濃いのは知っていたが、トーマス・マンのゲーテへの深く広い興味と追求には驚いた。「ワイマルのロッテ」「ゲーテとトルストイ」「ゲーテを語る」。そして最近ではダム・ジークリット※の「奪われた才能」(1999)が傑作だ。ゲーテの自己中心性とその犠牲になった者たちの悲劇が語られている。

ゲーテを大好きという女性には、少なくとも私は逢ったことがない。ゲーテの描く女性像に、そのカギがあるようである。「ウェルテル」のロッテは堅実な母性タイプだし、「ファウスト」のマルガレーテは無知で衝動的で浅はかな小娘である。「ファウスト」には「母たちのくに」の言及があり最後には刑死したはずのマルガレーテが救い手となり「永遠に女性なるもの我を導く」でゲーテ=ファウストは昇天する。要するに、ゲーテにとって女性は性的欲望の対象か、あるいは救ってくれる母、時にはその両方を兼ねているのだ。変幻自在の滅私奉公、どんな女性がこんな役割を引き受けたいと思うだろう。

かれの生い立ちを見ると兄弟※※7人のうち5人が夭折し、妹と彼だけが恋人のように親密に成人したが、その妹も26歳で死ぬ。彼自身も生涯に何度も大病したが82歳まで生きた。ひとり残った彼は、死者に代って長生きして仕事をせねばと思ったのだろう。幼児※※※のころ外国語が五つぐらいでき、さらに中国語やアラビア語も習得している。(この点では親しみを感じる)文学以外にも科学や政治など幅広い興味と才能を発揮している。躁うつ気質であり、同調性が強くて人当たりが良く、いつも友人を求めて陽気で愛嬌の良い彼は、ワイマル公国で高い地位につき、長年にわたり広い人脈を得たことも、声望につながったと思える。精神的に弱く、いつも誰かからの同意と励ましが必要だ。若い時は妹だったし、ある時はエッカーマンだった。作品自体に大衆的な人気がないのは自分でも認めている。例外は詩と、「若きウェルテルの悩み」で、その驚異的な売れ行きのお陰でワイマル公にも認められた。ただ、彼自身はこの作品を何十年も読み返そうとしなかった。死ぬほど苦しい経験だったがそれを書くことで、実際の彼は死なずに済んだ。(ヘッセの「車輪の下」に似ている)それなのに、大勢の若者がつられて自殺したのは悲劇だ。ウェルテルは2010年「ゲーテの恋」で映画化されているが、肉感的な表現が賛否を呼んでいる。

結論。ゲーテはドイツ文化の空気または土壌となっている。私にとってシラーやハイネ、ヘッセやトーマス・マンはスックとそびえる山だがゲーテの場合は誰もが吸う空気であり踏みしめる土である。風に吹かれ小鳥の声を聴く心地よさ、それを与える大自然のような存在がゲーテだ。英・仏に立ち遅れたドイツに、基礎となる土壌を与えようという意気込が彼にはあったというが、それはおそらく実現したのである。

ヨハン・ウォルフガング・フォン・ゲーテ(1749‐1832享年82)

※「試みた」は「読んだ」ではない。包囲攻撃するもついに撤退。
※ダム・ジークリット→ジークリット・ダム
※※兄弟7人のうち5人→6人のうち4人
※※※幼児→少年

以上訂正又は加筆(17‐6‐5)

→「四十八歳の抵抗」11-12-15
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