こんな本を読みました

気ままで偏りのある読書忘備録。冒頭の文章は、読んだ本からの引用です。

『われにやさしき人多かりき わたしの文学人生』(田辺聖子)

2014-05-03 | ルポ・エッセイ
私は、小説の効用は〈人生のおちょくりかた〉を暗示する点にもあると思う。
艱難辛苦の人生、〈おちょくら〉ないで、どうして凌いでいけよう、というところだ。


 おちょくるとは、ふざける、からかうなどの意味の大阪弁。一貫して大阪、厳密には神戸を含む人々の生き
ざま、恋愛模様を紡いで来た小説の名手の心に残るひとこと。本書は2006年に配本が完結した『田辺聖子
全集』の自作解説を再編集したもの。田辺聖子といえば、子どもの頃から思春期にかけて大ブームで、彼女の
少女小説は星新一や北杜夫と並ぶ愛読書だった…ように記憶している。少し大人になってから手を出したのは、
古典もの。「舞え舞え蝸牛」とか、タイトルが個性的なものが多く、本棚に並んでいた光景が記憶の片隅にあ
る。…が、が、彼女の小説の本当の魅力に気づいたのは十分すぎる大人になったここ何年か、そうそう、NHK
の連続テレビ小説「芋たこなんきん」でそういえば好きだったな~なんて手にとったあたりか。そこで、衝撃
を受けるのである。こんなに素晴らしい小説を書く人だったんだ!と遅すぎる再発見の感動に打震えたのだ。
 そして今ふたたび、作者自身による解説…いや、単なる解説にとどまらず、小説観、人生観、すべてが凝縮
されていて、彼女の作家として人としての魅力が堪能できる本書が読めたことをとても幸せに思った。読んで
いて何度感動して涙ぐんだことか。解説なのに、だぜ。ボキャブラリーの豊富さ、やわらかでいて的確な表現、
根底にある信念と願い、あふれるバイタリティ…そしてなんともいえない可愛らしさ。なんて魅力的な人なん
だろう。小説家はかくあるべき!と思わずにはいられない。もちろん解説されている小説は、すべて読みたく
なった。いやあ、全集、欲しいわ。また装丁がいいんだ(もちろんググった)。買っても置く場所、ないんだ
けどね…
 そしてしみじみ思うのは、戦争を乗り越え生き抜いてきた世代のたくましさと懐の深さ。今、小説を書いて
いる人にいないよなあ、こんな人…と思うと淋しくてならない。