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正規雇用求め46歳の決断ー実態としてメーカーが使い続けているのだから直接雇って責任を果たすのは当然ー

2008-12-28 02:27:17 | 国内労働
 ニュースUP:現場で考える 正規雇用求め46歳の決断=樋口岳大、日野行介

 ◇「使い捨て、許さない」
 米国発の金融危機を受け、日本国内でも多くのメーカーが次々と人員削減を明らかにしている。真っ先に削減の対象になるのは「派遣」などの非正規労働者たち。派遣会社との契約を打ち切るだけで簡単に削減できるからだ。しかし、こうした「派遣切り」の陰には、生活不安におびえる多数の派遣労働者と家族の人生がある。「正社員になって安心して働きたい」。そんな思いで、巨大メーカーに一人で直訴した46歳の派遣労働者の闘いに密着した。

 「真っ先に首を切られるのは、我々非正規労働者。法律も行政も私たちを守ってくれない」。兵庫県加古川市の圓山(まるやま)浩典さん(46)は00年から、大手重機メーカー「三菱重工業」の高砂製作所(兵庫県高砂市)で請負、派遣の労働者として8年半働いてきた。

 11月20日、日本弁護士連合会が主催した労働者派遣法の抜本改正を求める集会に出席。機械油で汚れた青い作業服姿で、国会議員や弁護士ら約130人を前に声を震わせて訴えた。「私たちを使い捨てにする企業、それを放置する国を許せない。仕事の合間にふと目を閉じると、家族の顔を思い出す。私は家族を守りたいだけ。力を貸してください」。会場から、もらい泣きする声が漏れた。

 圓山さんは当初、請負会社の社員だったが、三菱重工の正社員から直接指示を受けており、実質的な派遣労働を隠す「偽装請負」の状態だった。06年4月、自分も知らない間に「派遣」になっていた。06年は松下電器産業(現パナソニック)やキヤノンなどの巨大メーカーで偽装請負が次々と発覚し、その状態を形式的に解消するため、派遣に切り替えるメーカーが相次いでいた。

 しかし、派遣労働者の受け入れ期限は3年間。高砂製作所は、09年4月の期限が来れば、基本的に再度請負に戻す方針で、このままでは非正規雇用を脱することができない。仕事は重さ数キロの大型研削機を使い、発電用ガスタービンの部品を加工する重労働。機械の振動で首の筋肉を断裂したこともある。それでも圓山さんの時給は1600円、月収にすると25万円程度で、ボーナスは年14万円。正社員とは大きな格差がある。

 低賃金に加え、不安定な雇用が将来への不安をかきたてる。米国エネルギー会社「エンロン」の破綻(はたん)(01年)を受け、製作所の受注が減った際、圓山さんと同じ請負の労働者たちが次々と職場を追われた。その時、正社員から浴びせられた言葉が忘れられない。「お前らは雇用の調整弁や」。「お前らは代わりが何ぼでもおる。ティッシュペーパーと同じや」と言われた同僚もいたという。製作所で派遣労働者を管轄するのは「資材部」。当初は有給休暇すらなく、社会保険もなかった。人間として大事に扱われていないと感じてきた。

     ◇

 今春、請負に戻されると知り、直訴を決心した。もちろん、立場の弱い自分がメーカーに物申せば、いじめを受けたり、解雇されるのではないかという不安はあった。いったん職を失えば、46歳という年齢からも安定した再就職先を見つけるのは難しい。94年に購入した自宅のローンは返済がまだ10年間残っている。

 妻雅子さん(46)は時給750円のパートをし、高校3年生の長女(18)は進学を希望している。家族に相談すると、圓山さんと同じ製作所で、やはり派遣労働者として働く長男(20)は「俺もおやじと気持ちは一緒や」と言った。雅子さんも「子どもや若者たちのため頑張ってほしい。信じているので最後まで一緒に闘いたい」と後押ししてくれた。踏ん切りがついた。

 毎日新聞が10月25日、「直訴」を報道した直後、圓山さんは職場で、三菱重工の社員から声をかけられたという。「新聞見たで、頑張りや」。決断は間違っていなかったと確信した。

 圓山さんは地域労組に加入し、11月6日、「三菱重工との間には実質的な雇用関係が成立している」として、労組メンバーとともに正社員としての直接雇用を三菱重工に申し入れた。応対したのは「勤労課」の初めて会う正社員だった。しかし、「行政指導を受けていないので偽装請負とは思っていない」と繰り返すばかりで、名刺すらもらえなかった。

 初めての話し合いが持たれた12月2日。会社側は「直接の雇用関係にない」との姿勢を崩さず、議論は平行線だった。闘いは始まったばかりだ。

     ◇

 三菱重工のように同じ業務で派遣と請負、期間工を繰り返すケースについて、厚生労働省は「法の趣旨に反する」と問題があることを認めるものの、「直ちに違法とはならない」と規制する姿勢を示していない。

 また、違法派遣や低賃金によるワーキングプア(働く貧困層)の増加などが問題となり、厚労省は労働者派遣法の改正案を今国会に提出している。しかし、改正案は「長く偽装請負で働いてきた労働者と派遣先メーカーの間には、直接の雇用契約が自動的に成立している」とする「みなし雇用」の考え方を否定。正社員として雇用されるには、労働者が自ら偽装請負を立証したうえで、行政が派遣先に勧告する必要がある。このままでは、圓山さんは救済されない。

 非正規労働の問題に詳しい村田浩治弁護士(大阪弁護士会)は「圓山さんのように非正規労働者として長く同じ工場で働くケースは珍しくない。実態としてメーカーが使い続けているのだから、直接雇って責任を果たすのは当然。国として救済するよう法律を改正すべきだ」と指摘する。<阪神支局・樋口岳大、社会部・日野行介>

(出所:毎日新聞 2008年12月10日 大阪朝刊)
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