23日、マドリード郊外で行われたVOXの選挙集会で、スペイン国旗を振る支持者たち(三井美奈撮影)
(産経新聞)
スペインで28日行われる総選挙で極右新党「ボックス」(VOX)が支持を伸ばし、1978年の民主化後、極右が初めて下院に進出する見込みとなった。カタルーニャ自治州の独立問題をめぐる混乱、移民流入への不安を追い風に、「自国第一」のポピュリズム(大衆迎合主義)が同国にも波及した。
23日、VOXがマドリード郊外で開いた選挙集会は、赤と黄のスペイン国旗であふれた。会場は伝統の象徴である闘牛場だ。サンティアゴ・アバスカル党首(43)が革ジャンパー姿で壇上に立ち、「スペインを再び偉大にしよう」「国の誇りを取り戻せ」と訴えると、約5千人の支持者が「万歳、万歳」の連呼で応えた。締めくくりは国歌の演奏だ。
会場には、中道右派の元与党「国民党」からのくら替え組が目立った。マリア・アズバレズさん(60)は「強い国家が必要だ。これまでの政府はカタルーニャ独立派に甘い顔をして、国の危機を招いた」と訴えた。若者も多い。大学生、ギレルモ・デルサズさん(19)は「スペインは大国。欧州連合(EU)は、仏独並みの発言権を認めるべき」と話した。
世論調査で、VOXの支持率は約13%。下院(定数350)で約30議席を獲得するとみられる。2015、16年の総選挙で得票率は0・2%程度だったが、同州独立の動きに危機感を抱く保守派を吸収した。
VOXは「不法移民は強制送還」「モロッコ国境に壁を作る」と公約。アバスカル氏はトランプ米大統領にそっくりな主張から、「スペインのトランプ」の異名を持つ。カタルーニャ州の独立運動には「国家分断の企て」と敵意をむき出しにし、独立派政党の禁止や自治権停止を要求。移民流入の阻止を掲げ、EUに対し、国境検問の再開を廃止したシェンゲン協定の凍結を要求する。
アバスカル氏は、分離独立派のテロが頻発したバスク自治州の元州議会議員。かつては国民党に所属したが、「分離独立派への対策が生ぬるい」と主張して脱党。13年のVOX設立に加わった。父は国民党の有力政治家で、家族はバスク独立派テロの標的になった経験を持つ。
VOXは昨年12月、南部アンダルシア自治州議会選(定数109)で、極右として初めて12議席を獲得し、左派政権が続いた同州で、国民党主導の中道右派政権を発足させる原動力となった。15世紀にキリスト教徒がイベリア半島からイスラム教徒を放逐した「レコンキスタ(再征服)」をたたえ、イスラム移民に対する強硬策を訴えた。
スペインは内戦(1936〜39年)後、フランコ総統が75年に死去するまで右派独裁体制を敷いた。78年の新憲法で立憲君主制に移行した後、有力な極右政党は存在しなかった。
5月末の欧州議会選を前にEUではイタリアやフランスなど各国で、イスラム移民の排除や「自国第一」を主張する右派ポピュリズム政党が支持を伸ばしている。(マドリード 三井美奈)
シェンゲン協定の凍結にカタルーニャ独立反対そしてEUに独仏と同等の発言権を要求--強い指導者が現れました