安倍晋三首相の辞任表明に伴う自民党総裁選に、菅義偉官房長官が出馬する意向を固めた。二階俊博幹事長や麻生太郎副総理兼財務相が菅氏を推す考えで、首相も前向きとされる。次期政権でも主流派として既得権益を維持し、人事や政策決定に影響力を行使したい勢力が、政権中枢で7年8カ月にわたり首相を支えた菅氏が適任とみて白羽の矢を立てた格好だ。
二階氏はかねて菅氏の手腕を評価しており、首相が辞任を表明した28日朝のテレビ番組収録でも「(首相に)指名されれば十分任に堪え得る人材だ。有力候補の一人だ」と明言。共に国会議員秘書と地方議員を経験、最近も頻繁に会食を重ね、気脈を通じる間柄だ。29日には菅氏から直接、出馬の意向を伝えられた。二階派の河村建夫元官房長官は30日、「(菅氏支援の)空気が生まれている」と記者団に語った。
一方、麻生氏は消費税への軽減税率導入で菅氏と対立するなど反目。岸田文雄政調会長への「禅譲」を探る首相と歩調を合わせてきた。だが、岸田氏はここへきて発信力や指導力の欠如を露呈。政権批判を繰り返す石破茂元幹事長と一騎打ちになれば「勝ち目はない」(竹下派幹部)と目されていた。首相退陣が確定すると、麻生氏は「菅氏が一番収まりがいい」と方針転換を口にした。
首相自身、任期途中での不本意な退陣で当初描いていた岸田氏への禅譲がかなわなくなると、複数の関係者に「菅氏が望ましい」と本音を漏らした。ただ、後継選びに関与すべきではないとの立場から、表立っての発言は控える意向だ。
「『菅待望論』の雰囲気を徐々につくっていこう」。あるベテラン議員は29日、菅氏と会ってこう申し合わせた。菅氏と親しいこの議員は、首相が17日に慶応大病院を受診して健康不安説が高まった頃から、後継には菅氏しかいないと見定めて党内の根回しを進めている。
ある主要派閥の幹部は、二階派が既に菅氏支持を固めたことを踏まえ、「細田派、麻生派、竹下派がどうするかで流れが決まる」と述べ、派閥主導で選挙戦の行方を決定付ける考えを示した。
総裁選に当たり、二階氏は党内の根強い異論をよそに、党員投票を伴わない両院議員総会で決着させる方針。新型コロナウイルス感染拡大や経済悪化という国難に直面する中、政治空白の長期化を避けるという「大義名分」の下、過去の党員投票で強さを示してきた石破氏に不利な構図に持ち込もうとしている。
一方、首相からの禅譲を基本戦略としてきた岸田氏は、主流派から菅氏に乗り換えられた形となった。岸田氏は30日、東京都内で細田派会長の細田博之元幹事長、麻生氏と相次ぎ会談。改めて支援を要請したとみられる。だが、岸田派中堅は「今回は勝ち目がない。一度我慢した方がいい」と語り、撤退も視野に入れるべきだと指摘した。