図地反転 | |
曽根 圭介 | |
講談社 |
幼女誘拐殺人事件の捜査は大詰に迫り、犯人の自供を待つばかりとなった。
一方、18年前に幼女誘拐殺人で捕まった男は、釈放されてから冤罪を訴えはじめるが……
警察小説だけど、安定してうまい。
改行も多く漢字も難しいのは使ってないのに内容が濃いし、前作『沈底魚』同様、刑事の描写がちょろっとしか描いてないのに、ガラの悪さと一筋縄では行かない感じと、それでも組織に縛られている感じが実に刑事らしい。基本が実によくできているから、ややもすると退屈なほどのじっくりとした着実な展開をしっかりと見せてくれる。
が、話自体は、タイトルからしててっきりなにかのどんでん返しがあるのかと思ったが、単に思い込みと情報操作で人間の認識や記憶なんてどうでもなる、というだけの話で、読者の認識までもだましていたわけではなく、そういうミステリー的なトリックではなかった。それが残念だった。
ホラー小説の方ではデビュー作の『鼻』をはじめとして、まさしく読者の図地反転をまねくような書き方をしていたので、すっかりそちらの方を期待していたため、肩透かしだった。まあ、これは自分が勝手に期待したからいけないんだけど……。でも、どんでん返しして欲しかった……。
そういうの抜きにしても、最後のほうがかなり意図的にスッキリしないようになっているので、実にもやもやしたまま読み終わる。人間の悪意とか身勝手さとかをリアルに描く、というか作者自身が世界をそういう風に観ているのが如実に伝わる書き方は見事だし、それを考えるとこのもやもやしたラストはアリなんだと理性では思うのだが、しかしもやもやしていやな気持ちになったのは事実なので、すっきりしたかったというのが素直な気持ちです。
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