ブラック・スワン 3枚組ブルーレイ&DVD&デジタルコピー(ブルーレイケース)〔初回生産限定〕 [Blu-ray] | |
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主人公の所属する一流バレエ劇団で、新たな演出で「白鳥の湖」が上演されることになった。
その演出とは清純なホワイト・スワンと、妖艶なブラック・スワンを一人二役で演じさせること。
主役を望む主人公はオーディションを受けるが「ホワイト・スワンなら君を選ぶ」と云われながらも、ブラック・スワンがどうしてもできない。演出家への直談判の結果、見事に主役に選ばれた主人公だったが、ブラック・スワンを演じられぬために度重なるダメ出しをくらい、ライバルたちと夜遊びをするなど新たな道を模索するのだが――
バレエという題材を生かした陰湿な女の世界の話なのかと思ったら、創作というものにたずさわる人間すべてに可能性のある精神的な圧迫感の話だった。
自分の夢を娘にたくす母親との軋轢。同じ夢を追うライバルからの嫉妬。正反対の個性をもつライバルへの嫉妬。演出家への媚びと不信。そういったものの中で生きるということの意味、その苦しみというものを、じっくりと描いている。そしてじっくりと日常を描いたうえで、唐突にさりげなく肉体的精神的に痛々しいシーンが入ってくるからたまらない。その痛々しさもリアルにありそうな生々しいシーンの連続だし。
なかなか剥けなくてどこまでも皮膚がめくれていくささくれとか、唐突にきれてケーキをゴミ箱につっこむ母親とか、本当に唐突ででも生々しくて痛い。痛すぎる。そういうシーンのオンパレード。本当に唐突にくるから予測もできなくて痛い。
ネタバレこみでいってしまうと、結局、自分の中にある芸術というものに追い立てられた人間がノイローゼになり、そのノイローゼの人間から世界がどう見えている、ということに終始していた映画で、ナチュラルな精神的圧迫感を違和感なく映像に落としこんだ点は非常に高く評価できる。
ただ、それをわかったうえで観ると、べつにバレエが題材である意義はまるで感じず、バレエだからこそという映像演出があったともいえず、敢えて云うならただガリガリになっているという肉体的な痛々しさを出したかっただけなのかな、という感じがして、そういう意味では物足りなかった。もっとバレエならでは、という点が観たかった。主人公がどうやってブラック・スワンを演じられるようになるのにいたったのか、どのように上手くなったのか、に関してほとんど描写されていなかったのでなおさら。ラストのブラック・スワンの演技も、映像的に面白くはあったが特殊効果が先にたってしまい、主人公の成長を感じさせるというものではなかったと思う。まあバレエ門外漢の自分がそのままのものを観たところで、良し悪しはわからないとは思うけどね。
最後の最後まで「完璧」というものにこだわる主人公の姿は、およそ創作をしようと志したことのある人間ならだれもが一度は夢みる彼岸であり、観ていて胸が痛くなる。その成就をもってそのまま作品を終わらせるのは、彼女自体になんの救いも訪れていないが正しい幕ひき。
全体的に芸術にたずさわる人間の光と闇をともによく描いた良作だが、スリラー的演出に凝りすぎてしまい、そういう目でみると肩透かしをくらう感がある。バレエ映画としても物足りない面があり、公開前の宣伝でウリがいまいち曖昧であったことと合わせて、期待の仕方によってはずいぶんとガッカリしそうな作品ではある。
表現者の苦悩と発狂、だけがテーマだとは思えないですし、母娘間の抑圧/抵抗の様子もプレッシャーの一種として描いているんだろうなと思います。
この映画の感想をあれこれ書いていくと長文になりすぎるので「ブラック・スワン」を観に行った日の自ブログのURLを貼っておきます。だらだらした文章ですが、興味があったらどうぞ。