キングコング 55点

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※今作を観ていたら、コメンタリを流していたわけでもないのに、なぜか脳内でピーター・ジャクソン監督が語りだしたので、今回は脳内監督の語りをもって感想の代わりとします。ちなみに監督の顔はまったく見たことありませんが、イメージとしてはロンゲで天パーで小太りの槙原敬之を想像してください。ぼくの脳内監督はそんな感じです。


やあ、ピーターだよ。
やだな、ジャクソン監督だなんて。ふふ、ピーターと呼んでおくれよ。
キング・コングを観るんだって？　いい選択だよ。ふふ、今まで見てなかったことが悪い選択かもね。
上映時間がちょっと短くてね。たった188分なんだ。まずそのことを謝っておくよ。
ロード・オブ・ザ・リングの方は見てくれたかい？
そう、あれも三部作でたったの九時間しかないからね。原作ファンのみんなには悪いことをしたと思っているよ。
最初三部作って云ったのは、ホビット庄を出るまでに三本って意味だったんだけどね、ふふ、勘違いされちゃって。ホントは完結まで40年かける予定だったんだ。ユニバーサルにもそう説明したんだけどね、そしたら「そんなに長く待てない！早く最後まで観たい！ファンもみんなそう思ってる」って、そう云われちゃってね。仕方なく、三本で駆け足気味に終わらせてしまったんだ。本当に悪いことをしたよ。
だから、このキング・コングは最初から三部作の予定だったんだ。それだったら五年もあれば完結できるからね。そしたらリッチが……失礼、フフ、リチャード・テイラーがね、云うんだ。
「おいおい、おれは今すぐにだって摩天楼のコングに会いたいのに、あと五年も待てってのかい、ピーター？」
知ってのとおり、このキング・コングは本当はロード・オブ・ザ・リングの前に作るつもりだったからね。ただでさえみんなを待たせているんだ。これ以上待たせるのは悪いなって、リチャードに云われて気づいたよ。
だから、しょうがなくたったの一本、188分になっちゃったんだ。
でも、観てもらえば満足してもらえると思うよ。
ふふ、もうはじまってるね。

どうだい？このオープニングは？ちょっと意外だった？
コングが出てくる気配がまるでない？ふふ、そうだよね……映画製作の現場からはじまるなんて、想像とちがったかい？
33年版のキング・コングは観たことある？それと、76年版は？
ない？どちらもかい？ 　
……うーん、変わった人だね。まあいいよ。ぼくのキング・コングを観たら、きっと全部観たくなるはずさ。
33年版はね、素晴らしい怪獣映画だよ。コングの恐ろしさがなによりも伝わってくるんだ。
76年版はね、やっぱり傑作だよ。コングの悲しみが胸を締めつけるんだ。
ぼくのはどっち寄りかって？うっふふ、どっちだと予想してる？

この映画館監督カール・デナムがね、いい顔してるだろう？
ジャックがね、実にいい表情をしてくれたんだ。
カールのモデルがぼく？　ふふ、そう見えるかい？　ぼくもこんなに力強ければいいんだけどね。でも映画にかける情熱はカールもぼくも同じくらいだよ。

コングはまだかって？　まだ三十分しか経ってないよ。
ふふ、いいだろう？　この船。この船で髑髏島に向かうんだ。
洋上でひろがる人間ドラマはね、これだけてで他の映画一本分の価値があると思うよ。本当は、この船のシーンだけで一本の映画になるはずだったんだからね。
アンとジャックが惹かれあっていくのがいいだろう？　この船のシーンがあるから、髑髏島がより映えるんだ。海が美しいよね。この色を出すのにずいぶん時間がかかったよ。
どこまでがＣＧかって？　ふふ、それをわからせないの技術なんだ。
残念ながら髑髏島上陸までには一時間しか使えなかった。
映画産業は、この辺がすこし遅れているよね。最低六時間は続けて上映できるようにするべきだし、その間快適に過ごせるような映画館をこそ作るべきだと、ぼくは常々思っているんだ。でも、仕方ない。涙をのんで一時間に切り詰めたよ。

髑髏島の原住民のくだりはね、我ながら怖く撮れたと思うよ。思い出すだけで震えてくる。
リアリティがね、大事なんだ。
アンが原住民に捕らわれてしまう。まるでサウロンへの生贄だ。
そうして早くも主役の登場！
ああ、もう、観てよ！
あの手！　あの鼻！
ああ、こっち観ないで。スクリーンに集中して！
コングの動きから一瞬でも目を離すなんて人生の損だよ！
あの毛！　あの足！　あの跳び方！　あの毛！
ああ、もう、コングの体臭が鼻の奥に突き刺さるようだ！
たまらないよ、ああ、たまらない！
はじめての人にはちよっと刺激が強すぎたよね。大丈夫？
ああ、もう目を離しちゃだめだって！

髑髏島にはね、恐竜が生きてるんだ。
観てよこの原始林！　ああもう！　そしてコング！
ああもう！　ああもう！　ああもう！　どう思う、あの毛？
カールが命の危険を晒しても撮りつづけるのがわかるよね。それが自然だものね。
この原始林の美しさはね、中ツ国に勝るとも劣らないよね。恐竜の動きがね、本当にもう。ああ、ほらコングが！
ダメだよ、目を離しちゃ。
あふぅ～あふぅ～。

……
……

ごめんよ、ちょっと一時間ばかり瞬きも呼吸も忘れていた。
だって、見逃せるシーンがないんだものね。自分でも驚いちゃうよ。
美しいでしょう？コングは。
野生の恐ろしさ、悲しさ、生きるということの意味、コングの中にはそのすべてがあるんだ。あの毛を見てよ！　わかるだろう？
でも、ともあれコングは捕まってしまった。
苦労してコングを捕まえるより、小型の恐竜をつれかえった方が良かったのに？
は～……
まあ、きみがコングをそっとしてあげたい気持ちはわかるんだ。ホントはね、ぼくもそうなんだ。コングを捕まえるべきじゃないと思うよ。
でもね、コングを目の前にしてしまったら、欲望を抑えられないよ。それが自然なんだ。あの毛を見てよ！悲しいよね。コングであるということはなんて悲しいんだ。あの瞳はＣＧでつくったものだけど、決してつくりものなんかじゃないよ。あそこにはコングの魂が宿っているんだ。わかるだろう？　あれはぼくが作れるような眼じゃないよ。
偶然だよね、偶然なんだ。コングははじめからここにあった。ただたまたまぼくが監督をしただけの話さ。

ニューヨークに連れ帰って、見世物にされるコング。
え？　ああ、これはね、生理現象だよ。自然な話だよ。ニューヨークとコング。この組み合わせは、生物の本能に訴えて涙を流させてしまうらしいね。何度観ても止まらないよ、でもいいんだ。
ぼくはね、コングのすべてをこの映画にこめたつもりだよ。でもね……
あ、今のジャックのセリフを聞いたかい？
「カールは愛するものを破壊せずにはいられない」
うっふふふ。愛するコングを見世物としてしまうカールの気持ち、わかるかな？
本当に、ぼくはぼくのすべてをかけて、この映画を作ったんだよ。コングのすべてがこの映画の中にあるといえるようなものを目指したんだ。33年版もすべて内包するような、オールアバウト・キング・コング。そう云えるような映画を目指したんだよ。
それでもね、それでもなんだよ。
ぼくのつくった映像は、ぼくの頭の中にあるコングの足元にも及ばない。
本当のコングはもっと猛々しくて、もっと神々しくて、もっと毛深くて……ちがうんだよ。
映画にしてしまえば、結局ただの見世物さ。どんなにがんばってつくっても、そうなんだ。
コングという至上の幻想は、映画にした時点で破壊されてしまうんだ。
ほんとはね、子供だましに見えるんだろう？
陳腐な古臭いストーリーに見えるんだろう？
それでも、ぼくはコングを撮らずにいられない。
みんなにコングを観てもらわずにはいられないんだよ。

ぼはもう、ニューヨークの景色を見るだけで涙が止まらなくなってしまったよ。
ほら、摩天楼が見えるだろう？
あれはコングの墓標さ。
いままさに、スクリーンではコングがおお暴れしているね。でも怖くなんかないだろう？
ひたすらに、悲しいよ。
コングが戦っているのは、ただの軍隊じゃない。
コングは世界と戦っているんだ、自分が自分らしくあることを許してくれない世界と。
ぼくたちみんなと同じさ。コングはもっとも純粋でもっとも繊細な、ぼくたちの代表選手なんだ。

「美女が野獣を殺したんだ」
知ってのとおり、この最後のセリフは、元の33年版とまったく同じだよ。
これはね、人生すべてをあらわす言葉だよ。わかるでしょう？
うっふ、うっふふふ、ごめんね。この映画を観ればすべてわかることだったよね。
でも、ぼくは伝えていきたいし、ぼくが死んだらみんなにも伝えて欲しいんだよ。
コングがどれだけ美しかったかをね。
観てくれてありがとう。嬉しかったよ。
この映画を観た以上、ぼくたちはみんな仲間だ。コングだよ。
それじゃあね。

（2008/7/8　埼玉にて）



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