西向きのバルコニーから

私立カームラ博物館付属芸能芸術家研究所の日誌

トイレの魔人

2005年12月24日 03時01分50秒 | 小説
 昨年の秋のこと。近くの小学校で、地域対抗の運動会がありました。うちには子供がいないので、運動会なんてずっとずっと関係なかったのですが、去年は町内会の役員が当たっていたので、仕方なく参加しました。
 運動会では、役員として場内整理などの仕事の他、うちの町内を代表して、パン食い競走や綱引き、リレーなどの競技にも参加。文字通り、忙しく走り回っていました。
 さてそんなさなか、私は久し振りの運動会に緊張したのかどうしたのか、おなかが痛くなってきました。しばらくは様子をみていたのですが、もうどうしても辛抱できなくなってきて、お弁当を食べていたうちの町内会長の奥さんの持っていたポケットティッシュを「これ、ください!」と一方的に奪い取り、そのまま学校のトイレに駆け込みました。トイレの大をする方の個室に慌てて飛び込み、やれやれと用を足していますと、個室の外から「誰や? 誰が入っとんねん?」と言う男の子の声。
 私は昔のことを思い出しました。私が小学生の頃、やはり同じようにトイレでしゃがんでいると、きまって悪ガキどもがやって来て「誰やトイレ入っとる! ウンコしとる! くっさ~。ベンショベンショ、鍵しめた~!」などとはやされ、よくいじめられたものでした。
 いつの時代にも、こんな悪ガキがいるんだなあ、と思っていると、突然ガタンという音がしました。馬鹿なことにその悪ガキは、私の入っていた個室の壁に外から飛びつき、よじ登り始めたのです。どうやら上から覗くつもりのようです。お尻を捲ったままの私は一瞬慌てました。が、すぐに名案が浮かびました。
 申し遅れましたが、私の本業は声のタレントです。数多くのラジオCMに出演し、声だけでいろいろな役柄を演じてきた経歴の持ち主です。
 私はしゃがんだまま、しばらく息を潜めて上を眺めていました。そしてトイレの壁の上からニョキリと腕が出てきて、いよいよその悪ガキの顔が覗こうとした次の瞬間、私は思いっきり低く図太く大きな声で「誰が入っとったかて、ええやないかい!!」と怒鳴りました。するとバタズッテンガッタン、ドッシーン! と、大きな音がしました。どうやら悪ガキは、鬼のような魔人のような、恐ろしい私の声に大層驚き、トイレの壁をずり落ち、床の上に叩きつけられたようでした。
 私はおよそ三十年振りに、いじめっ子に仕返しできた気分でした。あ~スッキリした。


小説、次回はスポーツ人間ドラマ『蟻に訊きたし』をお届けします。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。