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伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

「せいの神」という違和感から その8

2023-05-23 23:22:43 | 民俗学

「せいの神」という違和感から その7より

 

 『長野県史』編纂時にまとめられた調査データ票の年中行事2-4「松飾り」にある「処理の仕方」を図化したものが上記の地図である。主旨が「セイノカミ」であることから、あえて「サイノカミ」と「セイノカミ」を別の記号で作成した。そもそも「サイノカミ」と「セイノカミ」は同じものなのか、という議論も必要なのだろうが、あくまでも呼称に対する違和感から始まった今回の取り組みなので、そこは別稿に譲ることにする。また、同様に「ドンドヤキ」と「ドンドンヤキ」も別の記号にした。この呼称はその事例数が多いことから別記号にしたが、「サイノカミ」と「セイノカミ」の関係とは異なり、本来であれば同類としてまとめても良かったのかもしれない。ただそこに地域性が見られると判断してあえて別のものとした。

 この図からわかることは「ドンドヤキ」は全県に分布しており、その理由は呼称の共通化に伴うものと考えられる。いっぽう「ドンドンヤキ」はほぼ千曲川流域に限られており、それ以外の地域では諏訪に若干事例が点在するのみである。とすると千曲川流域では、本来「ドンドンヤキ」が先行した呼称だったのかもしれない。地域性が明確なものが「サンクロー」であることは既知のものであって、これは松本から安曇にかけての特徴的呼称である。「サンクロー」に類似する地域性のあるものが「ホンヤリ」であるが、「サンクロー」ほど地域でメジャー化していない様相が見受けられる。とくにそれら地域に「オンベ」が点在しているところは注目される。この「オンベ」は離れて北安曇地域にも点在する。また、岳北地域に「ドウロクジン」がみられ、これも地域性と捉えられるだろう。加えて木曽南部の「サンチョヤキ」もここにのみ集中している。

 さて本題の「セイノカミ」である。「サイノカミ」との関係性もあるので、両者は類似した記号で示した。両者の事例は少なく、結論的なことは言えないが、木曽中部から木曽山脈を越えた伊那あたりに見られ、点在して諏訪や大鹿あたりにもみられる。もう少し具体的な地域を確認してもらうために、同じ地図に行政区域と河川を載せたものを文末に掲載した。分布域はより一層視認できるだろう。いずれにしても、伊那に「セイノカミ」という呼称が特徴的に存在することは確かと言えそうだ。今回の調査データ票からの図化は、実際刊行された『長野県史』から図化するよりも、正確性が高いことがわかることと、とくに「処理の仕方」という問いであるため、調査票に記載されたコメントも含めて解析が可能となる。効果が高いということをあらためて教えられた。

 

 

 なお、長野県図の市町村名や調査地点名については、「長野県民俗地図作成に向けて(行政枠)」を参照。

 

続く


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