Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

噴火予知

2014-10-20 23:41:06 | ひとから学ぶ

 10月19日信濃毎日新聞朝刊の1面コラム「斜面」に次のようなことが書かれていた。

 御嶽山麓の木曽町開田で1人暮らしの女性(83)は、お盆ぐらいから異変を感じていた。虫がいない―。いつもの夏なら外をうるさく飛ぶアブ、家の電灯の周りを舞うカメムシ、軒下に巣をかけるアシナガバチ…。どれも見かけない。9月14日、家族とともにこの女性宅の手伝いに来た長野市の孫娘(30)は、葉物野菜に虫がついていない畑で、祖母がこういうのを聞いた。「虫がいない年は、御嶽山の噴火か地震が起きるよ」。昔からの言い伝えだという。その約2週間後、山は噴火した

 おそらく前兆現象として、同じようなことに気づいていた人が何人もいたのではないだろうか。自然災害、とりわけ地震や噴火というものは、発生後そんな話が必ず持ち上がる。記事では南海トラフ地震に備えて高知県が、宏観異常現象の情報を県民から募ってもらう取り組みを始めたことについて触れている。科学的予知を目指している機関のそれよりも、もしかしたらずっと予知力は高いかもしれない。

 いわゆる「予兆」と言われるものであって、言い伝えにあたる。こうした伝承は民俗分野のものであって、あまたの民俗誌に取り上げられているものだ。もちろん地震・火山の噴火を直接的に指摘する予兆は数少ないが、異変を知らせる予兆としては幾つかの事例が取り上げられている。例えば『長野県史 民俗編』では「火事や変わりごとの予兆」という項目を扱っている。御嶽山の地元にあちる「中信地方」を扱った第三巻(三)より拾ってみると次のようなものが上げられる。

①つばめが巣をかけに帰ってこなくなると火事や変わりごとがある。
②鶏が夜鳴くと火事や変わりごとがある。
③きじが鳴くと地震がある。

記事にあった言い伝えに近いものとして①があげられるだろうか。ようは動物がやってこないという異変である。③は直接的な指摘ではあるが、「きじが鳴く」ことで予測するのは無理というもの。浅間山のある東信の事例も拾ってみよう。第一巻(三)の「火事や変わりごとの予兆」には次のようなものが上げられている。

④からす鳴きの悪いときには変わりごとがある。
⑤夜がらすが鳴くと変わりごとがある。
⑥やみの晩に夜がらすが鳴くと七不思議が起こる。
⑦からすが墓地の供物を食べないと火事や変わりごとがある。
⑧つばめが宿がえをすると火事や変わりごとがある。
⑨つばめが巣を作らないときは変わりごとがある。
⑩めんどりがときをつくると変わりごとがある。
⑪おんどりが宵の内に鳴くと変わりごとがある。
⑫きじが鳴くと地震がある。
⑬小さな虫が鳴きやむと火事や変わりごとがある。
⑭犬が遠ぼえすると家事や変わりごとがある。
⑮猫が顔を洗うと変わりごとがある。

中信の例と同じようなものも上げられているが、⑬あたりは「虫がいなくなった」と捉えられがちな予兆といえる。以上の例からは冒頭の記事にあったようなより具体性のある伝承はうかがえない。この手の伝承の採取は希薄だと言えるのかもしれない。ちなみに南信の事例には「蔵にいる青大将や小動物がいなくなると火事や変わりごとがある」というものがあるが、いずれにしても噴火を予測する伝承例はなかった。


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