Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

コト八日を探る⑤

2011-02-19 20:17:25 | 民俗学
コト八日を探る④より

 前回消滅しそうなコトヨウカ行事があると述べた。集団で行われている行事はよほどのことがなければ消滅しないが、個人の家で行われている行事は昨年行われていても今年は消滅、ということがふつうに起きる。

 コトヨウカに松本あたりではヌカエブシなどと言われるものが行われる。木戸口において臭いの強いものをいぶして厄神が寄り付かないようにするもの。火を焚くというと盆の迎え火を思い出すが、あくまでも火を焚くではなくいぶすのである。ヌカエブシなどとわたしたちは呼んでいるが、実際に聞き取るとそういう名称で明確に答える人はなかなかいない。入山辺厩所でも2月8日の日に29軒ある家すべてを回って確認してみたが、平日の昼間ということもあって在宅されていて確認できたのは20軒余だった。そのうちで「ヌカエブシ」などという名称はまったく認知されないもので、かろうしで複数の方がエブリダシということを口にされたが、たいがいは「何と呼ぶか知らない」だった。冒頭に述べたように、そもそも個々の家でヌカエブシがほとんど消滅に近い状態にある。聞きまわらなくても木戸先にその痕跡があるかないかを確認すれば、行事が行われているかいないかははっきりする。その痕跡が確認できたのは、今年は3軒だった。ただ聞き取ってみると「忘れていた」みたいな答えもあって、必ずしもこの3軒に限られてしまっているというわけでもなさそうだった。とはいうものの、今年されていた3軒も、高齢の方たちが実践しているのみで、この方たちがご健在なうちはともかくとしてそうでなくなった時に果たして残るか、というと継承性はかなり低い。その証拠に、昨年はしたものの今年はしなかったという方の中に、亡くなったためという理由がある。また年賀状現象とも言えるが、家内が亡くなったばかりなのでやらなかったという場合、来年再び行なわれるかどうかという時に〝消える〟可能性もあるのだ。

 いずれにしてもヌカエブシの実施率はかなり低いことが確認された。かつてならどこの家でも行なったものが、世代が代わるたびにどんどん消滅しているのは間違いないわけである。入山辺奈良尾においても文献にはヌカエブシが必ず登場してくる。しかし、現状を確認するかぎり実施している家はない。ビンボウガミ送りにやって来た家々の面々を見ても比較的若い人たちばかり。聞くところによると厩所より軒数の割には高齢者はいるようだが、高齢者がいるからといって必ず実施されるというわけでもない。このように集団で行なうものより個々で行なっているものは年々消滅に向かっているということが言えるが、個々の行事の中でも温度差があることも解る。事実この日各地域を回ってみて目だった道祖神への餅塗りの行為は明かにヌカエブシに比較して実施の高さをうかがわせた。

続く

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