この曲は数あるバッハのカンタータの中でも指折りの名作、147番「心と口と行いと生活をもって」の看板曲で、単独でもよく知られていて、様々なアレンジでも親しまれています。でも、私がクラシックを聴き始めたときには聴いた覚えがなく、それだけに新鮮に感じ、すっかり虜になりました。
大学時代に高校のときの同級生が集まり、「イレギュラー・コンサート」と称して音楽会?をやることになって、合唱と音大に行った連中の演奏でプログラムを組んだんですが、この曲を歌おうと強引に主張し、みんなが受け入れてくれました。テノールパートは内声部なので、練習しているうちに曲の構造がよくわかって、勉強になりました。
カンタータ全体をピックアップして見ていきましょう。冒頭からトランペットと弦楽の掛け合いに導かれて、弾むように“Herz und Mund und Tat und Leben”(心と口と行いと生活)で始まるコラールも劇的な変化に満ちていてすばらしいものです。4つの名詞を執拗にund=andでつなぐのは野暮ったいのかもしれませんが、バッハの手にかかると信仰を構成する要素を一つずつ数え上げているような、さらに言えばLeben=Life(生きるということ)が心とふだんからの言動の集約であると思わせる、意味深さを帯びてきます。
第5曲のヴァイオリンのソロと絡み合うソプラノのアリアは、マタイ受難曲などのそれと同じく、歌い出されたとたんに心の中に深く入ってきます。この曲の次に第1部の締めくくりとして、マルティン・ヤーン(ca.1620-82)によるコラール「主よ人の望みの喜びよ」が歌われます。コラールが教会という共同体(Gemeinschaft)の歌だということは既に別のカンタータの際に書きました(5/14)が、この“Wohl mir, dass ich Jesum habe”(幸せなことに、私はイエスを持つ――私にはイエスがいる)で始まる確信と安らぎに満ちた3拍子のコラールこそがその発想の原点になっています。
9曲目の華やかなトランペットとバスによるアリアが高らかにイエスへの歌の捧げ物を行うことを表明します。1曲目のコラールとこの曲の伴奏部は、トランペット協奏曲のような趣きがあります。そして、歌詞を変えて最後に繰り返されるヤーンのコラールこそが捧げ物なのです。その歌詞の全文を掲げましょう。
Jesus bleibet meine Freude,
Meines Herzen Trost und Saft,
Jesus wehret allem Leide,
Er ist meines Lebens Kraft,
Meiner Augen Lust und Sonne,
Meiner Seele Schatz und Wonne ;
Darum lass ich Jesum nicht
Aus dem Herzen und Gesicht.
内容はイエスに捧げるラヴソングのようなものですので、戯れに物語の中でもやったように女性が彼氏に訴えるような感じで訳してみましょう(願わくばaikoのようにw)。
いつだってあなたは、あたしの喜び
心をなぐさめてくれる 一杯のジュースみたい
悪いことや嫌なことから、ぜんぶ守ってくれる
あなたは、あたしが生きてく力
見つめてるだけで幸せ、お日様みたい
あたしの魂の宝物、大空に舞い上がる気分よ
だから離さないから
あたしの心でぎゅっと、あたしの目でじっと♪
さて、「イレギュラー・コンサート」での出来栄えですが、どんなふうに歌ったのか不覚にも全く憶えていません。ただこのコラールが最初に歌われたことと、指揮をしたクリスチャンの友人が目を伏せて何事か祈りの言葉をつぶやき、我々の目を見てタクトを挙げたことだけが記憶にあります。
また性懲りもなくやりますよ。aikoの歌詞は頭にインストールされてるんで
「主よ人の望みの喜びよ」のCDですか?私はレオンハルトと昔のカール・リヒターの2種類を持っています。薄めと濃いめって感じでしょうか。すみません、あんまり演奏にはこだわりないんです……バッハのカンタータはドイツ語です。ルター派はふつうの人でもわかるようにラテン語をやめて自国語にしたんです。
あの、夢様がお好きなアーティストのCDをラテン語歌詞和訳解説の最後にご紹介いただけたら初心者がチャレンジするにはとてもとてもありがたいですm(__)m
目からうろこかもー。
YoYo Maのバロック集にこの曲があるか探してみよっと。