この映画を見ていて、とてもなつかしい気持ちになりました。昔ながらの小汚いアパートの一室や古い町工場が舞台になっているせいもありますが、登場人物と機械やチューブがしっくりとなじんでる感じがするからです。89年の白黒映画ですが、たぶん当時としてもレトロっぽい感じがしたと思います。それにしてもその後、ITだのヴァーチャルだの重さのない、さわれもしないものに脳みそを侵食された我々にはこの作品のような豊かなイマジネーションはもう失われてしまっているような気がします。
塚本晋也監督の名前は鬼才みたいな感じで聞いたことはあったんですが、作品を見たのは初めてでした。見てみて「こりゃあ、おもしろいや。えへえへ」と思ったんですが、意味とかストーリーとかは全くわかりません。だいいちなぜ「男」が「眼鏡の女」に襲われるのか、なぜ「やつ」と対決するのかなどなど全然理解してませんでしたから。それって無調の音楽だとテーマとか聴き取ろうとするのをやめて、ひたすら聴くだけになっちゃうのと似てるのかもしれません。大抵はその手の映画も音楽もつまんなくて眠っちゃうんですが、たまーに歯車が噛み合ったように引き寄せられます。まるで自分が考えたみたいに映像や音楽が展開してくれるのは稀な快感です。ゲンダイ的なものやゲイジュツ的なものに時々接したくなるのはそのせいでしょう。
石橋蓮司が出てくる辺りからイメージが少しもたれ始めますが、映像技術的には加速していくようです。CGのない時代でしょうから、すごく手間が掛かっていると思いました。CGでは無残なことになったでしょうけど。
CGには重さが感じられない、なるほどね、だから見ていて居心地悪い…と思える私はまだ浸食され度がマシなのかなw
でも、歴史の一場面を見せてくれたりするとおおーって思っちゃいますが。