夢のもつれ

なんとなく考えたことを生の全般ともつれさせながら、書いていこうと思います。

八つ当たりベートーヴェン

2008-03-17 | music
 3/14に東京芸術劇場で行われた読売日響の名曲シリーズに行って来ました。プログラムは下野竜也指揮で、前半がベートーヴェンのコリオラン序曲とピアノ協奏曲第5番「皇帝」、後半が同じくベートーヴェンの交響曲第7番です。先日の記事で書いたように2月定期の振替えチケットなんで席は選べず、3階のやや右寄り5列目でした。ここは昨年度の前半の定期演奏会に使われていて、何回も来ててそのたびに音の硬いのが気になりました。今回はそれほどでもなく、かえって分離がいいかなって思ってたんですが。……ま、その話は後にしますが、どうも今回はダメでした。同じ週に2回行ったせいなのか、土砂降りの雨の中を歩いてきたせいなのか、ステージが遠い席は苦手だからなのか、聴き慣れた曲だから集中力を欠いたのか、「演奏がどうだという以前に(あるいは以後に)どんな曲かを考える」という自分のスタンスが取れませんでした。

 ということで、今回は曲についてほとんど書くことはなく、演奏についての悪口が中心になります。まあ読者も少ないメモランダムのようなものなんで、その時々の気分で(というか実は自分の気分を)書くのもいいかなって。それとも癇癪持ちだったベートーヴェンが憑依したってことにしておきましょうか。で、椎名林檎の「弁解ドビュッシー」の真似したタイトルにしました。……まずコリオラン序曲ですが、始めからなんだか緊張感がないなって思いました。悪くない演奏だけど、何がしたいかわからないからほめ言葉が見つからないっていうか、そんな感じでした。

 次はボリス・ベレゾフスキーの独奏による皇帝ですが、最初に独奏を聴いて軽々と弾く、明るい音でおもしろそうだなって思ったのにオケが弾んでいないというか、テンポが遅いような、わくわくしない演奏で、どうもピアノと噛み合わせが悪かったです。カデンツァになるといい感じになるのに。楽章が進むとどうもベレゾフスキーの方が妥協したのか、つまんない方向に収斂していったようでした。2曲聴いてオケというか、下野は「今日はベトベンの気分じゃないんだ」って言ってるような気がしてしまいました。彼はいつもやる気と元気が満々で、飲み屋で隣の席にいるとうるさいだろうなってタイプに見えるんですけどね。アンコールはよくわからないけど、甘ったるい曲だなと思って帰りにロビーで掲示を見たらやっぱりラフマニノフ(プレリュード作品23-4)でした。

 休憩時間に「月刊オーケストラ」という70ページ以上ある読売日響のブックレットをパラパラめくっていたら、ふだんはプログラム紹介以外はあまり読まないのに魔が差したというか、常任指揮者のスクロヴァチェフスキのことについてとある音楽評論家の文章に目が留まり、私も彼の演奏については書いたことがあるのでついつい読んでしまいました。見開き2ページ、彼の写真があるので実質1ペ-ジ半の文章中、「フルトヴェングラーばりのアッチェレランド」から始まって、「朝比奈、ヴァント逝去後の“ブルックナー指揮者の大空位時代”を救い」、「レーグナーのように職人タイプながら」、「アバドのように普通は聴き取れない木管を浮かび上がらせ」、「フルネは日本で有終の美を飾ったが、現在もボッセ、シュナイトなどその指揮者としての活動の掉尾を日本で飾りつつある名指揮者は多い」とよくもまあ次から次へと他の指揮者の名前を出すわ出すわ。これをもしスクロヴァチェフスキが読んだら怒るか、泣くか、憐れむか、「恐るべき音楽の内実の不在」と思いました。でも、まあこれが日本の音楽評論とリスナーの水準なんでしょうね。お買い物ガイドというか、チケットやCDを買った人に満足感と次なる購買欲を駆り立てる機能しかないものがほとんどかなと思いました。

 後半はベートーヴェンの中でもいちばんノリのいい曲、ということはすべてのクラシック音楽の中でも指折りのノリのいい7番ですが、どうも緊張感のない感じが続いてて、各セクションの間やフレーズの間にふっとすき間が空きます。なぜかなーって思いながら聴いていたら、第1楽章の途中で、自分が聴いている音とステージで指揮者やプレイヤーが聴いている音が違っているんじゃないかと思い当たりました。こう書くと当たり前のことのようですが、ふだんはそんなことは意識しないものです。コントラバスや木管のそれぞれの音までくっきりと聞こえるこのホールのせいだろうかと考えます。

 第4楽章になって、いきなりフルートが左後方からも聞こえて、あっと声を挙げそうになりました。まるで幻日のようです。それからもちょいちょい聞こえますが、音色もちょっと違うし、気持ち悪い代物です。いくら音響をよくし、3階席でもはっきりと聞かせてあげようと思ってもこれはないんじゃないかと思いました。ガンダムの頭のような3階席の壁をにらみます。フィナーレに向かってせっかく金管がぶおぉっと吠え、チェロとコントラバスがうねっているのにノリノリとはいきませんでした。

 ちょっと悲しい気分で、拍手を義務的にして、下野も2回ほど出てきたからそろそろ席を立とうとかと思ったその時、もう一度あっと言いそうになりました。そう、アンコールを始めたんですね。しかも、G線上のアリア。……オール・ベートーヴェンのプログラムでなんでG線上? いや、それ以上にアマチュアじゃあるまいし、アンコールをなぜする? なぜしたい? いや、もちろんそれはイケメン・ピアニストとのだめのテーマソングがお目当てで来た人たちへのサーヴィスなんでしょう。10日とは段違いの席の埋まり具合だったし。でも、私には日本のクラシックの現状を見事に表わした恥ずかしいものでしかありませんでした。まるでフランス料理を食べた後にお勘定をしたらチューインガムをもらったような。


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2 コメント

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まあそう怒らずに…w (ぽけっと)
2008-03-21 22:46:39
演奏への不満がホールの造り、アンコールの曲目にまで及んでまさに八つ当たりですねw
恐らく同じ演奏会場にいて、安易に満足したであろうと思われる他の聴衆にも実は多少矛先向いてるんじゃないかな、て気がしましたけど…
八つ当たりしたい演奏会ってあるもんで、理解いたしますw

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どっちかって言うと (夢のもつれ)
2008-03-25 17:49:24
ホールの方の不満が強かったんですが。。サントリーホールの礼賛や外国人指揮者の崇拝はしたくないんですが、素直に感想のつもりでもそう読めちゃうだろうなって思います。

アンコールの前に席を立ってればもうちょっとよかったかもです。
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