夢のもつれ

なんとなく考えたことを生の全般ともつれさせながら、書いていこうと思います。

サリエラの帰還

2006-01-23 | art

 今朝の朝刊に次のような記事が載っていました。

 03年5月にウィーン美術史美術館から盗まれた、16世紀のイタリアの彫刻家ベンベヌート・チェッリーニ作の金細工「サリエラ」が21日、発見された。地元警察が同日明らかにした。容疑者とされる写真を前日に公表したのがきっかけで、男(50)が数時間後に自首、供述通りウィーン北西約90キロの森に埋められていた木箱の中から見つかった。
 金細工は豪華な彫刻が施された約26センチの塩入れ。「彫刻のモナリザ」とも呼ばれる傑作。時価は5000万ユーロ(約70億円)以上とされ、オーストリアでの美術品盗難としては過去最大の被害だった。
 警察は20日、犯人側から昨年10月に保険会社に1000万ユーロを要求する手紙が送りつけられ、同月末に取り外しが可能なサリエラの矛の部分だけがウィーン中心部のモーツァルト像近くで発見されていたと発表。さらに警察との接触に使われたとされる携帯電話を買った男について、監視カメラの写真を公表していた。男は知人から「写真に似ている」と指摘され、すぐに観念したという。
 警察などによると、男は警報設備関係の仕事をしていた。事件の数週間前に同美術館で初めてサリエラを見物した際、警備システムの欠陥を見つけ、犯行に至ったが、美術品としての価値は知らなかったという。


 うかつなことに私は、このサリエラが盗難にあったことも知りませんでした。一昨年にウィーンを再訪した時も王宮内の宝物館は行ったような気がしますが、これがなかったことも気づかなかったのでしょう。でも、この塩入れは何十回となく見慣れたもので、数ある宝物の中でも一際、目を引くものです。リンク(環状道路)を隔てた美術史美術館と違って、宝物館は王宮の部屋を改装したためか、狭くて天井も低いのですが、所狭しと置かれた王冠や十字架の宝石の無造作な大きさは、特に女性を喜ばせるのにうってつけです。

 でも、日本語のガイドブックは絵画の方はわりとくわしく解説してあっても、工芸品の方はなかなか解説していませんし、現地の日本語や英語の解説本はドイツ語からの翻訳で、素っ気ないような解説しかなく、このサリエラが「彫刻のモナリザ」と呼ばれているなんて、初めて知りました。宝の山に入って手ぶらで出てくるという言い方を名画をろくに見ないで素通りするときによく使いますが、自分がそうだったとはお恥ずかしい次第です。

 記事には警備システムの欠陥って書いてありますが、実際にはガラスケースに顔をくっつけるようにして見ることもできるので、さもありなんって気がします。この1品が日本に来ただけでも黒山の人だかりになるだろうなっていうものがゴロゴロしているんですが、警備のおじさんやおばさんにはなんの緊張感もありません。本当のところは知りませんが、のんびりといい加減そうにしているのがオーストリアの取り柄でもあり、せっかちな日本人にはイライラさせられるところでもあります。

 作者のベンヴェヌート・チェッリーニ(1500-71)についても全く知らなかったんですが、ミケランジェロとも交流のあったルネサンス時代の申し子のような奔放な性格の人で、18世紀になってその自叙伝が刊行されると、ルソーやスタンダールを魅了し、ベルリオーズは彼の名前を冠したオペラを書き、ゲーテが翻訳を行うという熱狂を巻き起こしたそうです。また、知ってみたい人物が現れた気がして、とてもうれしいですね。



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