
高松の気温は、その日34℃まで上がったようだ。
山から下りてきて、暑気が吹き上げるような熱気がゆらゆら路面から立ち上がっていた。
頭は朦朧として、まともな思考能力に欠いていた。
やっと辿り着いたその寺で納経を済ませ、「やれ間に合った」と納経所で納経帳を差し出せば、
83番札所にその寺院の名前がない。
「えっ?香西寺は別格ですか?」
やっと事態が呑み込めた…私は大回りして88カ寺の別格霊場へ足を運んでいたのだ。
その日は朝から変だった。
宿の近くの81番白峯寺を打ち終え、1番札所の霊山寺から何度も宿泊先で顔を合わす京都のタケカメさんと
また同宿だったので白峯寺で写真を撮らせてもらった。
そして、そのタケカメさんとも面識のあるクニシンくんも到着した。
先に打ち終わった私は、「先に行っているよ」と次の札所を目指した。
灯篭と歌碑の並ぶ階段をずっと下って行った。
この地に流された崇徳院(崇徳天皇)を慕って訪れていた西行の歌を詠みながら
気持ちよく下っていた。
最後に崇徳院のホトトギスの歌碑に感心しながら周囲の風景を眺めると変だ。
次の札所、根香寺は山寺のはずなのに里へ下ってしまっている。
近くで作業していた農家の人に「根香寺へ行くには、この道で良いんですか?」と訊ねた。
「いや、全然違う。根香寺は、あの山の上の道だ」と振り返った山の稜線を指し示す。
「えっえ~また登り返すのか」私の億劫そうな声に「車で回ってあげよう」と親切にも声をかけてくれる。
「本当ですか。ありがとうございます」私は何を思ったのか、その車でのお接待を受けてしまったのです。
その人は根香寺の下山口まで送ってくれた。
お礼を言って車道を上っていると、また軽乗用車が停まって、根香寺まで乗せてくれると云う。
このお接待にも、あっさり乗った。
根香寺山門まで送ってもらい、その上、もぎ立てのビワのお接待までうけた(感謝)
さて82番根香寺を打ちながら、やっと自分のやったことの重大さに気付いた。
納経を終えると、クニシンくんが上ってくる。
その顔をみて私は、自分の失態を深く恥じた。
遍路道上で、車のお接待を受けるということは、今まで歩いてきた四国遍路の線が途切れるということ。
「また、この部分だけ歩き直しに来ればいいですよ」とクニシンくんが慰める。
「うん」と頷いて、まだ逡巡の炎は消えない。
荷物を片付けながら考えた。
「ここで道を途切れさせたら、今まで歩いた1000km以上の道のりが全て無駄になる」
もう結論は出ていた。
「クニシンくん、もう一度白峯まで戻って歩き直して来るよ」
「さすがランスケさん、その方が好いですよ」と笑顔でうなずいてくれる。
「じゃあ」ザックを担ぎ直して山道へと足を踏み出した。
正直、後悔しなかったかと云うと嘘になる。
11時に根香寺をスタートして、白峯寺までの片道5kmの山道を歩き1時間半かけて到着。
その道を、また登り返すことは精神的にも苦痛だ。
日盛りの山道を歩き返しながら考えた。
「私は父や母の死に対して、いっぱいの後悔をかかえて、この遍路旅を始めた。
亡き父母と母の養母だったハマノおばあさんの菩提を弔うためのお遍路旅だ。
その道中で少しづつ抱えてきた後悔が軽くなってゆくのを感じていた。
それなのに、せっかく続けてきたお遍路を途切れさせるという大きな後悔を背負い込もうとしている。
わずか往復10km足らずの道のりを億劫がって、今まで歩いてきた1000km以上の道のりを無駄にしようとしていた。
少しぐらい遍路旅が長くなっても大丈夫。もうゴールが見えている場所まで来ているのだから」
午後3時前、根香寺到着。
次の札所、香西寺?へ向けて山道を下り始めた。
(実際の83番札所は一宮寺である。なぜ別格霊場を88カ寺と勘違いしたのだろう?)
その日は精神的にも疲れ果てて足取りが重く、当初予定の屋島手前まで辿り着けず
高松市郊外の鬼無で宿をみつけ泊まった。
この距離では、結願は一日遅れるかもしれない。
6/24の歩行距離、22.3km。
この暑さで体力的にも精神的にも参っていると思いますが、一日の遅れなど人生から言ったらわずかですから・・・
それより後悔の重さの方がずーっとのしかかってくるでしょう。
接待してくださる人の気持ち、応援していただく読者の皆さん、ランスかワールドの仲間などなど、一緒に歩いている人たちがいることを思ってくださいね。
私もクニシンさんが書き込んでいるとおりだと思います。
途中、何度も自販機による水分補給(ペットボトルを買っても、すぐに暑くなるからダメ)
と使える水道水(公園やトイレ、遍路休憩所)を探して水浴びしていました。
それにしても6月でこんなに暑いのだから、
真夏にお遍路される方を尊敬します。
とても、この炎天下に歩き続ける自信がありません。
今日は八栗寺までが、やっと。
明日一日で88番大窪寺まだ行けるか疑問?
クニシンくん、先へ行ってゴールしてください。
約束の祝杯を上げられないのが残念。
鬼城さん、すんなりゴールとは行かないようです(笑)
それでも明日か明後日には結願。
そして霊山寺まで二日。
どちらにしても残り数日です。
終わってみると祭りの後の寂しさでしょうかね。
後悔を残さないように大事にお遍路旅を歩き終えたいです。
闇の惑うはランスケさんの心。
ちょっと厳しい嫌みな言い方ですが。
Let's Enjoy the henro
でも焦りはないと思います。
香川県は札所間の距離が詰まっているので自然に一日に打つ札所の数が増えて来るのです。
打つ札所の数が多い割には歩く距離が短いですよね。
それから崇徳院は、祟り神として有名らしいです。
私は崇徳院御陵のある五台山で、祟り神に憑かれて山中を彷徨っていたのかもしれませんよ(笑)
クニシンくん、お互い後数日しか残っていません。
ラストウォーキング気持ちよく歩き終えたいですね。
最後は、また涙でグシャグシャになってしまうかも(笑)