Landscape diary ランスケ・ ダイアリー

ランドスケープ ・ダイアリー。
山の風景、野の風景、街の風景そして心象風景…
視線の先にあるの風景の記憶を綴ります。

風景の只中にいる幸せ-「水辺にて」

2010-11-28 | 

 やっと昨日、梨木香歩の「水辺にて」を読了した。

 読み難くて時間を要したわけではない。
 まったくその逆…愛おしくて一篇いっぺんを慈しむように
 言葉の紡ぐ美しく豊饒なイメージの広がりを
 立ち現われてくる世界のパースペクティブな臨場感を…
 字面をなぞるように少しづつ読みすゝめた。

 まず表紙の写真、朝靄の湖面に浮かぶカヤックの静かな佇まいに惹かれる。
 そのまま湖面に映る鏡の世界に惹き込まれそうな誘惑…
 撮影者は故星野道夫。
 写真にまつわるエピソードは文中、「発信、受信。この藪をぬけて」
 にて故人への想いをこめて記される。

 ちょっと本の中からランダムに文章を引いてみよう。

 上空5千メートルから、いくつもの空気の層が同じ冷気に貫かれている。
 シベリア寒気団。
 ロシアの老いた貴婦人たちが、衿の詰まった緞子(どんす)の正装で、
 馬車を連ねて厳かにも重々しく南に移動する。それの何陣目か。
 すでに凍み(しみ)透った彼女らの骨身に、更なる冬は耐えられず、
 決まって毎年避寒の旅に出るのだ。

 温かく迎えてあげたいものだが、尊大な年寄りたちの相手は正直に言うと準備が大変。
 道中大慌てで道を譲る諸々の土地の風神たち。

 慌てたような小さな、けれど鋭くくっきりした風が頬をかすめる。
 気まぐれな白い雪びらのようなものが一つだけ降りてくる。
 手を伸ばし取ろうとするが、カヤックに乗っているので大胆に動きが出来ず取れない。
 見送りながら、風花だと思う。

 日本海の風花を一行が道中の慰めに摘んできたのだろう。
 お目にかなった一番強く上等の風花を、上空高く引き上げて、若狭街道抜けさせて。
 薄青の空を見上げる。
 一刷けの巻き雲、たぶん、あのすぐ下辺り。

 如何ですか?
 冬の風景が、透徹した抜けるような冬の高い空が広がってくるようです。
 春夏秋冬…水辺の風景だけではなく森の風景も山の風景も
 鮮やかに立ち上がってきます。
 梨木香歩の紡ぎだす言葉のマジック…
 私たちは風景の只中で、茫然と立ち尽くし、その世界の有り様に心を奪われます。

 
水辺にて on the water / off the water (ちくま文庫)
梨木 香歩
筑摩書房

 

 ちょうど高知のmisaさんより送られてきた画像があります。
 日々の仕事と家事そして老いたご両親の介護…
 崩れそうな自分の気持ちを、一気に清新な気持ちにさせてくれる
 風景と出会われたようです。
 撮影者の感動が素直に伝わってくる爽やかな風景写真です。
 misa world 初公開。

 
 
  
 

 

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17 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (鬼城)
2010-11-29 19:56:21
 コメント、大変ご迷惑をお掛けしました。
多分、書き込みできるのではないかと思います。
確認はしているのですが・・・

 梨木香歩さんの「水辺にて」
エッセイ集でしょうか?
ランダムに拾い上げた文章でも、ピーンと張り詰めた状態が伝わってきます。さっそく読んでみます。

 misaさんの写真、「霧氷」良いですね。
冬間近な山容の厳しさと、これは文章ではなく自然の張り詰めた空気を感じることができます。

 気が滅入りがちな介護生活、その合間にでも何か見つけて頑張ってください。 
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すごいとしか (貴公子)
2010-11-29 22:29:41
まるでプロの写真家のようで・・・
プロですか?写真ヤさん??
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ついにmisa world 公開 (ランスケ)
2010-11-29 23:06:34
misaさんの写真良いでしょう。
写真ブログを始めるように以前から奨めているのですが、
なかなか本人が、その気にならないので、
ちょっと強引ですが事後承諾ということで
今回の記事タイトル「風景の只中にいる幸せ」そのままの画像が
送られてきたので掲載しました。

長い待ち時間の末、ガスが晴れて輝く霧氷林が
姿を現わした蒼穹の伊吹山。
撮影者の高鳴るときめきまで伝わってくる清々しい写真たちです。
添付メールとして何時も送られてくるので、
画像サイズが小さいのが残念。

鬼城さんも、梨木香歩の文章が気に入ってくれましたか。
本作は水辺にまつわる旅のエッセイです。
泉鏡花を彷彿とさせる「家守綺譚」新潮文庫もお薦め。

鬼城ブログのコメント欄が復旧しましたね。
「診断結果」に書き込んだのに表示されなかった
コメントが復活しています。
でも、そのことを指摘したコメントが、また消えました(苦笑)

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ビックリです (misa)
2010-11-30 21:55:58
プロなんてとんでもないですよ
ランスケさんや福島さん、三浦さんなどヤマを愛する方々に比べると小さい小さい・・・
ただ、こうしてこう撮るとか難しい事は余り考えません
素直に心に感じたものをそのまま被写体に語りかけながらシャッターを押します

ランスケさん、有難うございます
恥ずかしい半面嬉しくも有り熱が舞い上がりそうですよ(実はこの撮影日風邪を引きまして)

来月もう一度チャレンジします
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写真は撮影者の心を映す (ランスケ)
2010-11-30 23:51:41
misaさん、コメントありがとうございます。

了解を取らないままの掲載ごめんなさい。
今回送られてきた伊吹山の写真が、
あまりにもブログ記事の内容とピッタリだったので、
独断先行してmisa world を皆さんに観てもらいました。

間違いなく写真は撮影者の心を映します。
自分自身の写真からは不思議と見えてこないのですが、
ひとの写真からはビシバシ感じてしまいます(笑)

misaさん、これで確実に3人はあなたの写真のファンがいます。
それも、みんな筋金入りの石鎚通ですよ。
次回からは公開されることを前提として送ってください。
出来れば50キロバイトから130キロバイトくらいのサイズで。
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瓶が森の老木 (木下常雄)
2010-12-02 10:08:05
瓶が森の男山から女山に至る登山道に横たわっていた五葉松の老木が、つい先日、チェーンソーで切断されました。登山者にとっては道を塞ぐ邪魔者でしたが、樹齢は100年以上だったものと思われ、小中学生には自然保護の教材としても役立っていたようです。ツルギミツバツツジの枝も切り落とされているようです。伐採者は森林管理署の取調べを受けたようですが、登山愛好者ではなく、里道整備の感覚で機械を持ち込んだ「市民ボランティア」のようです。11月28日に信頼できる筋から入手した情報です(木下)。
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驚き!!! (山野貴公子)
2010-12-02 16:24:04
老木伐採の話は驚きだが、「木下常雄」の名前に驚き。(笑)

高校の同級生に同姓同名がいるが、確か1・2年では同じクラス。
まさか、南高19期ではないでしょうね。まさかね。
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デンジャラスKさん登場 (ランスケ)
2010-12-02 18:36:09
木下さん、コメントありがとうございます。

木下さんは、以前HP「石鎚山の四季」に登場した「デンジャラスKさん」です。
あの真冬の瓶ヶ森林道に出現した老婆のお話です。
のんびり山歩さんのHPにも、常連の山の写真ヤKさんとして登場しています。

貴公子さんの同級生かどうかは、ご本人に確かめないと判りません(笑)

あの五葉松が伐られましたか…
ボランティアと自称する横暴も、確かに困りものです。
東稜の通行禁止看板設置のときにも触れましたが、
国定公園内や国有林内での、あらゆる無許可の活動は、
罰せられます。
良かれと思う行為は人それぞれ…
カメラマンのマナーの悪さも指摘されますが、
ボランティアという名の身勝手な行為も困りもの。
あの自然監視員の腕章(昔、営林署から沢山配られたらしい)
をした人の横暴も目撃したことがあります。

木下さんが指摘するように、登山道笹刈りの際、
無茶苦茶刈る人がいますよね(う~ん困ったちゃんです)

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まさかです。 (木下常雄)
2010-12-02 22:37:00
南高が宇和島南の意味であれば

あの頃は、勉強に全く興味が持てず私が一番くすぶっていた時期です。私から見て貴公子に近い人物(例えば、KT君)はいましたが、貴公子の友人はいませんでした。
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ごめんなさい (kyo-chan)
2010-12-03 00:35:31
ランスケさん、ごめんなさい。
同級生連絡板にしてしまいました。不思議な糸がこのブログや前のHPには張られていたのですね。

あとで、わかったランスケ氏と我が愚母のつながりやデンジャラスKが我が同級生。まだまだ、出てくる予感すらします。(笑)

デンジャラスKさんは石屋のNisimuraと同じ町でしたね?ランスケさんの御母堂とも同じです。

貴君も3年には小生等と同じダウンクラス(爆)その後の再起は驚嘆。今の人生も。
 道理で今回の伐採情報も入るはずだ。

しかし、小生は遊び人。エライ違いです。(笑)
そうそう、病院で何気なく見た愛媛新聞の山の写真。まさかとは思いながら見たが、その「まさか」だったね。やっぱり、日本は狭い。

ランスケさん、ゴメンナサイ!!コメントと異なる連絡板にしてしまいました。
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