ある『物語』の断片

『物語たち』は語り始める。

届かないもの

2007-11-30 14:48:43 | ある『物語』の断片
いつでも迎えられるように
開けておいたままのドア

お菓子を並べて
言葉を並べて

ドア越しに見える
遠い景色の中の
人影を探した

でも
旅人は
今日も帰って来ない

どんな才能も
財産も要らない

ただ

必要とされる存在に
なりたかった

公園

2007-11-29 14:37:20 | ある『物語』の断片
5時の時報を告げる音
噴水の水しぶき
餌に群がる鳥たち

うすら寒い曇り空
ベンチの足下の吸い殻
取り残された男

男はまだ
時が動き出すのを信じて
ベンチから動けないでいた

全てはあの時から
凍りついたまま

リズムを刻むのを
止めてしまったまま

鼓動を
止めてしまったまま

夢幻

2007-11-28 02:05:13 | ある『物語』の断片
まだ、夢の中にいる

誰かから引き継いだ夢

いつか、
夢は終わらないといけない
それは知っている

それでも
その言葉がある限り
その願いがある限り

この旅は終わらない
この夢は終わらない

終わらせることが
できない

だから
もう少し待ってて

それが
許されないものだとしても

まだ、夢の中にいる

そろそろ誰かに
引き継がないといけない夢

独演

2007-11-27 15:30:51 | ある『物語』の断片
風は吹きわたる
ハーモニカの音色を乗せて
誰もいない荒野の中
誰かを慰めるがごとく

「意味など元から存在しない」
「本人の意志に関わらず」
「誰かが後からつけ加えるものなのだから」

男はそう呟くと
再び演奏を始めた

それは、突き放しているようで
とても優しい音色だった

童謡

2007-11-25 00:15:50 | ある『物語』の断片
息が真っ白になるような朝

少年はこの世界を旅立った

誰にも看取られず
誰の記憶にも留めないまま

ただ、彼の遺した歌だけは
かろうじて
この世界に
彼の痕跡を残していた

街行く人々は歌った

誰が作ったかも知らずに
口ずさむメロディー

作られた意図も知らずに
口ずさむ言葉

いつしか
歌は歌い継がれて
あの街まで
運ばれていた

今日も少年は
あの街で歌い続けている

紙飛行機

2007-11-23 00:16:23 | ある『物語』の断片
大気の中
見渡す限り
一人

青空の中
雲の中
一人

凍てつくような風は
むしろ心地好い

思い出も
こだわりも
不安も
全部
地上に残して

これが最後ならば
あの場所まで

誰も見たことのないものを
見に行こう

頼りなさそうな翼でも
どこまでも遠く
どこまでも高く

体の燃え尽きる
その時まで

世界の果てを
目指して

五感

2007-11-21 15:14:02 | ある『物語』の断片
視覚を鋭敏に
聴覚を鋭敏に
嗅覚を鋭敏に
触覚を鋭敏に
味覚を鋭敏に
全ての感覚を鋭敏に

測りしれないもの
得体のしれないもの
無意識のうちに
知ることを拒むもの

知ったら後悔するかも
知らない方がいいのかも

でも
それを知りたいなら

それの全てを認識しろ
答えを追い続けろ

全ての知覚を鋭敏に