ある『物語』の断片

『物語たち』は語り始める。

扉が開く時

2012-01-09 02:07:52 | その他提供物
家に持ち帰った仕事をやり遂げ、部屋の換気のためにベランダの戸を開けると、外は見違えるような快晴だった。ここ数日の真冬並みの寒さはどこかに過ぎ去ってしまっていた。自信を持って4月と呼ぶに相応しい暖かい風が、僕の部屋の中を駆け通ってきた。

まだ14時過ぎということもあり、僕は日曜日の街中をじっくりと歩くことにした。とはいえ、じっくりと、という言葉には相応せず、頭の中のふわふわとした幸福感に背中を押されて、足取りは自然と軽やかに進んでいった。
突如、日常についての様々なアイデアが、頭の中に勢いよく流れ出してきた。仕事のこと、人間関係のこと、生活のこと、書きかけの小説のこと、PREMIERの原稿のこと。あれほど歩みの重かった馬たちが、軽やかなステップで道を走っていくように、頭の中のアイデアは走り出すことを止めなかった。あぁ、久々に頭の中の扉が開いたんだな、と呟くと、僕はしばらく頭の中の馬たちが走ることに任せていた。

こういったアイデアは、一旦扉を閉じると、二度と向こう側から引っ張り出すことはできないことを僕は経験上知っていた。僕は、記録しなければならない。近くの手ごろな喫茶店に入り、手ごろな価格の珈琲を頼むと、僕は周囲に不審がられないように、ノートにアイデアをゆっくりと、確実に書き留めることにした。
この世の多くのプロの小説家は、こんなふわふわとした気分で作品を生み出しているのだろうか。それとも、もっとシステマティックに作品を練りだしているのだろうか。それは小説家になってみないと分からないことだ。でも、確か浅田次郎は物語が頭の中に降ってくるのを待っている、という話を聞いたことがあるから、扉が開くのをひたすら待ち続けているタイプの小説家もいるのかもしれない。そこまで考えたところで、頼んでいたブレンド珈琲が運ばれてきた。

珈琲をゆっくりと口にしつつ、こうした幸福な午後がもうしばらく続くことを僕はこっそりと願っていた。何でもできそうな万能感に満ちた午後。ふわふわと舞い上がりそうな午後。
喫茶店の扉が開き、新聞配達に来た青年が喫茶店のカウンターの上に夕刊を置いていった。カウンターの上の壁に飾っている時計の時刻は16時15分。太陽は少しずつ傾きながら、少しずつ大気を冷やしていった。日曜日は、少しずつ終わりに近づいていた。




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2010年4月
「雑兵日記PREMIER」にて Mr.エメラルド名義で投稿。

癒し系パンクバンド

2012-01-02 21:09:19 | ある『物語』の断片
ある清々しい朝に
ささやかに僕は辞表を出した
さらっと世間から背中を向けるために

歓声を挙げることもなく
拳を突き上げることもなく
ささやかにそっと手を握った

誰もが見向きもしない
忘れられたものたちに
そっと手を添えて

少し遠慮がちに
笑う

こころいっぱいに
笑う

逆らい続けるんだ
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