「1973中国」を手に入れた。
かってアサヒカメラや「いつか見た風景」などで少しだけ発表された作品が
ようやく一冊にまとまった。
25mmのワイドな画角に荒れた粒子は、かっての北井氏の代名詞であって
今となっては青春の甘酸っぱさを感じさせるような懐かしいスタイルである。
広州動物園でパンダが戯れる写真の2枚後ろに、木村伊兵衛氏が写ったカットがある。
そういえば、木村氏が「木漏れ日が当たるパンダが良かった」と語った記事が
アサヒカメラに載っていたはずだ。
15ページ、一面に広がる農園をバックに少女が座って微笑むカット、そして39ページ
これも農村を斜めに横切る並木道の写真が良いと思った。
少し間隔をおいて植えられた並木の葉が風にそよいでいる。
撮影は4月、やわらかな春の日差しとそよ風が自分の原体験を呼び覚ます。
確かアサヒカメラの中国特集での北井氏の作品も「春風」というタイトルだった。
あとがきで北井氏自身が
「私にとって写真は、失われた幼児体験の過去を喚起させ作り直すことだったのだ…」
と記している。
北井一夫の写真が一番魅力的なのは、まさしく見る者の既視感を呼び覚ます瞬間だと思う。