美術の学芸ノート

中村彝、小川芋銭などの美術を中心に近代の日本美術、印象派などの西洋美術。美術の真贋問題。広く呟きやメモなどを記します。

国立西洋美術館に眠る滝川製ルノワール

2016-12-27 17:21:13 | 美術の真贋
昭和23年2月10日に発行された「空しき花束」という本がある。大久保泰氏が書いた美術に関する評論、随想集だ。

私はこの本を読んで啓発されるところもあったし、この本のタイトルもなぜか若い私に心惹かれるものがあったので、古本屋で買い求めた。

この本の最初に挿入されているカラー図版が、下図、ルノアールの「少女」である。


そして、この本の239ページに、こうある。「口絵のルノアール「少女」は、藤山愛一郎氏のご厚意により、ここに飾らして頂いた。これはルノアールの中期の作で、いかにも好ましいものである。」

しかし、この「ルノアール」こそ、国立西洋美術館の収蔵庫の奥深くに眠る滝川製の贋作ルノワールで、その中期の作品という上記の表現もきわめて曖昧である。

今では滅多に図版でもお目にかかれない作品だ。

滝川から、パリで知りあった久保貞次郎氏へ、久保氏から画商の西川氏へ、西川氏から藤山氏へと渡ったものと推測される。川崎のデパートで盗難にあって、贋作と判明する前に藤山氏から国立西洋美術館に寄贈されたものだ。

久保貞次郎や富永惣一、嘉門安雄の各氏など当時の名だたる美術の専門家や画家の眼を欺いた作品がどんなものかと関心を持っても、西洋美術館の研究者以外は、贋作の実物をそう簡単には見ることはできない。試みに西洋美術館のHPで所蔵作品の検索をしても出てこない。

だから、今ではちょっと珍しいかもしれないこの贋作のカラー図版をここに掲げ、それへの関心や研究に役立つことを願う。

私の考えでは、国立や公立、私立美術館が所蔵する贋作や、怪しい作品も、意義ある研究の上、積極的に実物や画像で公開した方が、美術館や博物館の役割である公衆の美術教育に生かせると思う。

だが、現実には特別な企画展示以外、未だ収蔵庫に眠らせておくことが慣習となっている。これはとても残念なことだ。

何が贋作で、何が怪しい作品であるのかも、当該美術館の学芸員以外には、ほとんど知られていないのだ。

いつまでも曖昧なまま眠り続けている作品が、あまりなければ幸いである。

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