天下りという「システム」

最近、政府は公務員の天下りによる弊害を排除すべくいろいろと法改正を画策、
反対する自民党や官僚との軋轢が日ごとにあらわになってきているようだ。

ＴＶのニュースショーやワイドショーでも取り上げられているようだから、
ご存知の方も多いと思う。

天下りが談合の温床や高額の「渡り」退職金で批判が多いことは事実である。

一方で公務員にも職業選択の自由はあるとか、
中途退職した優秀な公務員の再就職を斡旋して何が悪い、
といった意見もある。

天下りしたすべての公務員が談合に関与しているわけでもないし、
「渡り」をしているわけでもない。

上級公務員から外郭団体や関連団体の理事などに転属、
「渡り」によって高額な退職金を何度も受け取ることは本当に腹立たしいが、
ひとまず置いといて、出世街道まっしぐらのキャリアについて考えてみる。

私は過去一度も公務員を志向したことがないので、
その細かい制度について調べたこともないし、
はっきり言ってよく判っていない。

しかし、出世を目指す「キャリア」組とそうでない「ノンキャリア」組があり、
事実上、採用時点から歩く道が違っているらしいことは薄々知っている。

学業優秀で日本の未来を憂い、自らの手で日本を変えていこうと、
高級官僚を目指して、公務員試験に挑み、見事合格して官公庁に就職。

日々研鑚して、出世を目指す。
ここまでは何も非難されることはない。

しかし、同期入庁、同期入省のすべての人材が同じように出世はできない。
係長になれるものなれないもの、課長になれるものなれないもの、
部長、局長になれるものなれないもの、
実力だけでなく、運もあればつきもあるだろう。

もし、同期の中で誰かが上司となって誰かが部下となれば、
お互いに切磋琢磨しあった仲でやりにくいことは言うまでもない。

敗れたものは去り、勝ったものがさらに上を目指す。
また次の段階で、選択があり敗れたものは去る。
同じようにトップを目指して入ったものの、
実際に上り詰めることができるものはほんの一部。
競争に敗れたものはすべて官公庁を去る。

公務員とはかくも厳しいものなのだ。

ン？
ちょっと待てよ。
そうやって、脱落していった人はどこへ行くの。

自ら起業し富を成した人もいるでしょうし、
コネを頼りに民間に移った人もいるでしょう。

しかし、多くの公務員は業務に専念しており、
再就職のことなど考えていないのだから、
困らないように面倒を見てやるのは人情と言うもの。
それを世間で天下りと言うのはどうなのか。

あれえ。しごく当然のように聞こえますね。

ここでよく考えて見て欲しい。

敗れたものが去るにしても再就職先が十分確保されていて、
生活の心配がなければ安心して去れるわけですね。

つまり、再就職先を保証することが、公務員の出世の仕組みを支えている。
ピラミッドを維持するために天下りと言うシステムが必要なわけだ。

こういう仕組みがなければ、公務員が増えすぎて困るなんて暴言まであった。

私も昔は公務員（キャリア）って厳しいんだな、なんて思っていた。
しかし、再就職先が確保されていれば辞めても少なくとも経済的な不安はない。

これを民間企業で考えてみよう。
入社した全員が役員や社長を目指しているわけではないし、
出世する人しない人を分けて採用する会社も多くはない。
（一部に無きにしも非ず）

仕事をしていくうえで、できるものは上がっていくし、
できないものはそこにとどまる。

３年もすれば給料やボーナスの支給額に目に見えて差がつくし、
５年１０年すれば役職にも差が出る。

給料やボーナスは黙っていれば判らないが、役職の違いは誰にも判る。
２、３年先輩を部下として使うことなんてざらだ。

同期の出世頭は部長で、課長もいるし、係長もいる、平もいる、
なんてシチュエーションだってごくごく普通です。

同期が課長になって、俺はなれない。
「やってらんないよ。」とやけ酒を飲むことはできても、辞めることはできない。
そんなことでケツまくっても誰も面倒見てくれない。

辞めたって失業給付もどんどん削られている現在、次の日から職安通いで、
いつまで持つか、心配しながら暮らさなきゃなんない。

大体、同期が上だの下だのぐらいで、まともに仕事ができないような奴に
良い仕事はできない。

ぽかをやれば降格だってあるし、昨日の部下が明日の上司なんてことすらある。

ごく一部の人間で、幹部の覚え宜しくそこそこ出世の末、
子会社の然るべき役職に転属、なんてこともあり得るけど、
保証はされていない。

まあ、課長レベルでそういうことはないだろうけど、
もう少し上なら、方向性の違いなどの理由で辞めることはあるかもね。
でも誰も大した面倒見てくんないよ。
無理やり転属させるような時は別だけど。

これって、官僚の出世とどっちが厳しいのか、微妙だよね。

でも、民間はそういうことを前提に人事制度が作られていて、
採用計画も立てられている。
一方で公務員も天下りが人事制度全体の中の一部として組み込まれているはず。
他に手を付けず、天下りだけを禁止するといっても、反対が多いわけだ。

だからと言って放っておいていいわけではない。
部分から手を付けないと全体が変わっていかないことも事実だし、
壮大な公務員の人事制度全体を一気に変えることなんてできやしないから、
少しずつでも直していかないと何も変わらない。

言えるのは天下りはよくないと言うだけでは「木を見て森を見ず」の典型だということ。

天下りの役員が何人いるとか、誰が「渡り」による退職金でこれだけもらったとか、
もちろん報道してもいいですよ、特に渡りの問題はどんどん追及すればいい、
しかし、上っ面だけなめて、したり顔しても本質は見えてこないってこと。