近藤誠医師への反論 2014・5.29
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このブログで未だに反響ある記事が、近藤誠医師のご意見をご紹介したものだ。
”患者よ、がんと闘うな”という言葉を掲げて、脚光を浴びた近藤医師に対して、
多くのがん専門医は反対意見を述べることなく沈黙を守っていた。
しかし、反対意見が全くないわけではない。
”患者よ、がんと闘うな”は近藤誠医師の自著は、5か月で33万部の売り上げを超えたベストセラーだ。
それに対して反対意見を述べた一人、 公衆衛生専門家、久道茂 東北大学医学部長[肩書きは当時のもの)は、1995年まで厚生省(現在の厚生労働省)の研究班長を務めていた。
その研究は、”各種がん検診の共通問題に関する事項”についてというもの。
さて、久道氏の主張を拠り所に、日本のがん検診は整えられた。
すなわち、がん検診で癌の早期発見、早期治療を推奨するもので、大腸がんの検診は、久道氏が、班長を務めた研究所の結論を尊重して、全国で始められるようになったという。
だから、久道氏は、”患者よ、勇気をもって、癌と闘え”と題した3ページにわたる
記事をサンデー毎日1996年7月28日号に掲載した。
これは、近藤医師の意見に反対の立場をとるものである。
それを読んだ近藤医師が対談を申し込んだそうだ。
しかし、その働きかけに 久道氏は応ずることなく、この両者の対話は実現
できなかった。
ここで、反論した医師たちの意見と照らし合わせるために、
もう一度、近藤医師の論点をまとめてみたい。
1~ほとんどの癌には、手術は役にたたない。
”ほとんど”といっているのは例外もありで、例えば、すい臓がんのバイバス手術
などの場合は効用を認めている。
現在 子宮頸がん、食道がん、膀胱がんなどは、手術が優先されるところだが、
放射線治療でも効果があがるとされる場合の手術をさしているようだ。
癌にかかっていても、できるだけ、その臓器を残す方法をとることを薦めているのが 近藤医師の特徴だ。
近藤医師が手術を提唱しない理由には 癌除去にともない”D2手術”が行われる
確率の多さを理由として挙げている。
D2手術とは胃の切除とともに、胃の周辺のリンパ節を第2群まで切除するというものだ。
これに関しては、当時癌研病院外科の太田恵一郎医師より反論があった。
”以前はD2手術を行う場合があったが、現在は、進行度に応じた手術を心掛け、内視鏡で切除できる小さながんはそうしている。”
というものだ。
近藤医師の本が出版されてから、イギリスで、胃癌のD2手術とD1手術をくらべたところ、くじ引き試験の結果が報告されたという。
その結果、進行がんと早期がん双方対象の試験であったが、D2の手術死亡はD1の倍、前者6・5%に対し後者13%という数字が出たという。
死亡率のみならず、合併症、後遺症の頻度も後者の方が高く、将来的にD2の生存率がD1の生存率を上回ることはないという結論が出た。(*1)
それでは具体的に近藤医師はどのように 胃癌に対して助言を薦めているかといえば
”胃癌では、転移は別として、原発病巣の治療には放射線は向いていません。
したがって、治療するとすれば、胃袋全部、または、一部を取る手術か、
胃袋そっくり残る内視鏡的治療のどちらかということになります。
より根本的には、私はそのままにしておいても、それ以上育たない胃癌や、
育つスピードの遅い癌が多いのではないかという疑問を持っています。
たとえば、手術を拒否したり、体力的に手術が無理な6人の早期胃がん患者を
そのままにして、一年ないし、3年観察を続けても一人として、胃癌が増大
しなかったという報告があります。”(*2)
結局、手術するメリットより しないメリットのほうが大きいと近藤医師は
臨床的に結論づけている。
もし、どうしてもするというのなら内視鏡を使った部分的切除を近藤医師は、
薦めている。
次のポイントは
2~抗癌剤が有効なのは全体の一割に過ぎない
近藤医師は、このことは、抗がん剤の専門家以外は思いもよらないだろうと
コメントしている。
”抗がん剤で生存率が目覚ましく向上するものは、小児急性白血病や悪性リンパ腫などわずかしかない。
肝がん、子宮がんなど、全体の9割を占める癌では、生存率の向上も、生存期間の延長も証明されていない。”
というのだ。
とはいうものの、まったく抗癌剤が効き目がないと断定しているわけではなく、
大腸がんでも、抗癌剤で癌が縮小する場合はあるにしても、延命効果や
”生存率の向上の証明”とは直接関係がないというのだ。
厳密に言えば、癌が縮小すること=延命 であるかという議論になってくるの
だろうが、近藤医師は、’抗がん剤が効く’という言葉の裏には、縮小することは
あっても、延命につながるかどうかは疑わしいという言い方をしている。
”この錯覚、つまり、癌がなおる可能性があるということを、縮小するという
意味と取り違えているので、日本ではほとんどの患者が抗癌剤の使用に同意する”
状況をつくっていると近藤医師は言う。
この意見に対して反論に近いものもあった。
たとえば、元日赤医療センター外科部長竹中文良氏は、
”私自身、患者さんに経口抗がん剤は使いません”としたうえで、
”ただし、近藤先生の’抗癌剤の全く効かない癌がある’という断定は強すぎると
思う”
という意見がその例だ。
近藤医師の着目点は、
”誰かが延命するかもしれないのに、抗癌剤を使った全員については延命効果が
認められないといえるのかといえば、それは、副作用で寿命を縮めている人が
いるから” だという。
さらに、
”抗がん剤は毒薬の一種なので、たとえば、10人に抗がん剤を使った場合、
その全員に副作用による寿命短縮効果が生じます。
わずかな場合もあるが、全員が抗癌剤で命を縮めているはずです。”
とも言っている。
がんの成長が一時的に抑えられる、
他方、副作用がある、その真逆な抗癌剤の効果を足し引きすると、マイナスの効果の方が多いとするのが近藤医師の意見である。
それを追跡調査などでまとめて数字で表したものが、生存率曲線といわれるもので、胃癌や大腸がんの場合、無治療の場合の生存率曲線とほとんど差がない、
という治療研究の結果に基づいていると、近藤医師は語るのだ。
(*1) "Lancet",347巻995頁、1996年)
(*2)”Lncet" 2巻631頁、1988年