"ちょっと外から見た日本"

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“放射能で首都圏消滅” 古長谷稔著

2011-05-08 17:50:05 | 日記

浜岡原発停止の件、結論が9日以降に先送りになっています。

http://www.chunichi.co.jp/s/article/2011050790231349.html

方向性に変化はないと信じますが、きちんとウオッチして行きたいと思います。

 

“放射能で首都圏消滅”、刺激の強い表題ですが、そのまま本のタイトルとなっています。

 

環境ホルモンの溶出を指摘した“カップめん論争”や、IHI調理器から出る電磁波の危険性に警鐘をならしたりしている、

「食品と暮らしの安全基金」というNPO法人が取りまとめを行っており、古長谷稔さんという方が著者になっています。

 

古長谷さんは、衆議院議員の公設秘書時代に、浜岡原発の実情と原発震災の危機を知り、人生を大きく変えたそうです。

生まれも育ちも静岡という環境で、東海地震をつねに「そこにある危機」として、秘書を退職し、「原発震災を防ぐ全国署名連絡会」の事務局長として奔走しています。

 

この本は、今、話題となっている浜岡原発の危険性に絞って一冊の本にまとめています。

薄い本ですが、見出しを含めてポイントが明快でわかり易く、必要な情報もきちんと盛り込まれています。

 

管首相もおっしゃっていましたが、東海地震は、“今後30年の間に87%で起こる確率がある”と言われています。

そして、その予想される震源域のど真ん中にあるのが浜岡原発なのです。

 

元地震予知連会長の茂木清夫博士は、

「東海地方にM8級の大地震が発生する可能性があることを、東大地震研究所の月例懇話会で発表したのは1969年10月28日であった」

しかし、そのわずか7ヶ月後に中部電力が浜岡原発の設置申請をし、その7ヶ月後に原子力委員会において許可されました。

 

 「東海地震問題に30余年取り組んできた筆者(茂木博士)には公式にも非公式にも、浜岡原発の立地、安全性に関して、

中部電力からも行政からも意見を求められたことは一回もなかった」

 「どれだけ真剣に検討したのであろうという疑問を感じないわけにはいかない」

 と語っています。

 

そして、「浜岡原発で事故が起これば、それはわが国に広域の破局を招く恐れがある。

 どこの国もやらないこのような“実験”を、唯一の被爆国日本でやってはならない」

と訴えています。

全くその通りだと思います。

 

浜岡原発では、1機につき1年間に約1トンのウランを燃やしているそうです。

それは広島原爆で核分裂したウランの約800gに比べて、1000倍以上の規模になります。

日本気象協会及び京大・原子炉実験所のシュミレーションでは、もし浜岡原発に事故があった場合、約6時間で放射線が横浜に到達するそうです。

 

京大の原子炉実験所では、浜岡原発で運転中の沸騰水型(BWR型)原発のうち、最大の4号機が爆発したときのシュミレーションを行っています。

それによると、将来がんで亡くなる方の数は191万人となっています。

 

この本を読んでいて意外に思うのは、チェルノブイリ原発事故による人体への被害に関するデータがちゃんと出ていることです。

国連科学委員会で作成されたグラフを見ると、チェルノブイリ事故のあった1986年から4年後から、急激に小児甲状腺がんの患者数が増加していることが一目瞭然です。

今まで、なんとなく、事故と人体被害の関連性ははっきりしないという話を聞いて来ましたが、それも情報操作だったのかな、と思ってしまいます。

 

この本では、浜岡原発の事故が起きた場合どのような対処をすべきなのか、

そして、普段から心がけるべきこと、準備すべきことはなにかということにも、わかり易く触れています。

事故が起きてしまった場合に一番大切なのは、“逃げる”のか、“閉じこもる”のか、を選択するということ。

 

仮に“放射性物質が飛んでくる”という情報が伝わった場合、パニックになってしまって、大渋滞で、逃げようにももう逃げられない、ということも出てくるでしょう。

その見極めが大切だということです。

普段から頭の体操を行っていくことは、とてもいいことだと思います。

 

今回は、東海地震ではなく、東北の地震によって福島原発事故が起きてしまいました。

その違いはあるものの、2006年に出版されたこの本では、今回起きたことを、まるで預言しているように感じる部分がいくつも出て来ます。

 

例えば、この本には、過去の原発事故の経験から、

“地震の後、原発で事故が起こっても、政府や行政、電力会社から放射能に関しての正しい情報はすぐには出ない、と考えておくのがいいでしょう。”

”真実が明かされるまでに数日待たされる可能性もあります。そんな悠長な話につきあっていたら、命がいくつあっても足りません。”

と書かれています。

 

唯一外れているところがあるとすれば、それはまともな情報が出てくるのが数日では済まなかったことかも知れません。

それは、某官房長官のご家族がシンガポールにいち早く避難して、だいぶ後になってからでしたし(笑)、

2ヶ月経った今でもハッキリしないことがまだまだ多いように思います。

 

次の文章も預言のように感じながら読んでいました。

“地震で同時複数の事故が起きれば、もう終わり・・”のタイトルの頁で、

 “たとえば、地震で廃刊が破断して冷却水の喪失が始まると、別系統で水を供給する非常用炉心冷却装置(ECCS)が働く仕組みになっていますが、ECCSは耐震基準が低いので、地震で壊れる恐れがあるのです”

 

当初、東電、政府は、福島事故は津波によってもたらされたと発表しました。

しかし、実際は、地震直後、すでに冷却装置が機能しなくなっていたことが最近になって確認されています。

 

“あちこちで事故が続出した原発を、さらにその直後、強烈な余震が襲ったり、津波が襲ったりするのです。

事故の処理をしながら放射能まみれの原子炉の周りで、余震を恐れながら復旧作業をする、作業員の気持ちになってみてください。

まともな作業などできるはずがありません”

 

その通りになったと思いますし、命懸けで現場で働かれる皆様には、改めて頭が下がります。

 

この本では、浜岡原発の危険性に気づき、内部告発された方々のコメントも出て来ます。

 

東芝で原発設計に携わっていたエンジニアであった谷口さんもその一人です。

 「浜岡2号炉は耐震数値をごまかして造っています」

と、33年目にその不正を公表しました。

 

“「浜岡2号炉は、地震に耐えられない」ことが判明した。

理由は、①岩盤強度が弱い②燃料集合体が共振する―の2点。

それを隠蔽するため、3つの“ねつ造”が密かに行われた。

具体的には、①岩盤強度を「強」に②共振は「しない」に③建屋鉄骨「粘性」を「大」にして地震動は減衰するに・・・。”

 

谷口さんが内部告発を決意したのは、浜岡原発の炉心隔壁にヒビが入っていたことに衝撃を受けたからだそうです。

 

しかし、経済産業省に提出されたその告発文書に対する中部電力の返答は、

「古い話なのでわからない」というものでした。

その1年半後に浜岡原発の1,2号機の休炉が発表されたことは、実は、その事実を中電や政府が知っていたことを示しています。

 

浜岡原発4号機に使用されるセメント骨材を一手に納品していた安倍川開発という会社の元課長さん、松本さん。

納入するコンクリート骨材が粗悪であった為、国の検査機関から「有害」と認定されていたものを、

“『データ改ざん』『証明書捏造』を行い、『無害』と“偽装”して、納入を続行してしまったのです。

 

「有害」なコンクリートサンプルが、半年後には亀の甲羅のような無数の亀裂走っているのを見て、

「これを原発に使うのか」と暗澹たる気分になり、

退職してからも、不安と自責の念に悩み続けた後、内部告発をしたのでした。

 

しかし、それに対する中部電力の反応は、

「目視点検で異常がないので、問題なし」でした。

 その上で、コンクリート業者に損害賠償を求めました。

 

“その後、原子力安全・保安院の立ち入り調査でも健全性が確認されたと報告がなされ、この一件は葬り去られました。”

 

 津波対策についても決して準備周到とは言えない様子が書かれています。

東海地震で予測されている津波の高さは、浜岡原発の荷揚げもするすぐ近くの御前崎港で8.1mです。”

 

“それに対して、中部電力が予測している津波の高さは6.0mです。

「海と原発の間に10mの高さの砂丘があるから大丈夫」というのです。”

 

 思わず笑ってしまうような説明ですが、笑い事ではありません。

 中部電力の認識は問題外だと思いますが、今となっては、2005年に海上保安庁が発表した8.1mも大きく見直す必要があると思います。

 

神戸大の石橋教授もこの本に出てくる告発者の一人です。

  「地震学者は、地震がまだよくわからないものだということをよくわかっている。

しかし、原発関係者は、地震のことはすべてわかっているような論理で安全性を主張する。

それがおかしい。血がしたたるような生きた地震は、起こってみなければどんなものかわからない」

 

全くその通りだと思います。

そのことは、今回の地震、津波、福島原発で、日本のだれもが実感したことでした。

 

今回の福島原発事故は、それ自体が大きな災害、人災でした。

 

と同時に、

浜岡原発を含めた他の原発に対してどのようなアクションを取るのか、

そして今後日本がどのようなエネルギー対策を取っていくのか、ということを真剣に考えていくための

なにか“大きな計らい”でもあったのではないかと、思っています。

 

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