何となくもう一度見たくて“殺人狂時代”のフィルム・フォーラムへ。
暗闇の中で目を凝らすと、だんだん良く見えて来るような気がする。
チャップリン扮する殺人鬼が、街で拾った若い女に毒を飲ませようとして思いとどまる場面が、映画史に残るほども美しいと思う。
映画を見ている時間よりも一度目と二度目の間の日々や、見終わった後にあれこれと考えを巡らせる。
特にそれまで戦争など意識していた風でもない犯罪者が言うラストシーンのセリフ。
「一人を殺せば犯罪者だが百万人を殺せば英雄だ。」
不自然にも思えたけど・・・。
犯罪者が自分の罪を世の中が悪いのだと言い訳するのは世の常だよと我々は笑う。
しかしその自分たちが軽蔑する犯罪者の言い訳が、核心を突いた正論であり、実はお前さん達みんなが犯罪者なんだよと暴かれた時の矛盾と衝撃。
笑いと犯罪と優しさと哲学が混沌とする、矛盾の中をつらぬき通すあの悲しみをたたえたチャップリンの目に思い当たるフシがある。
「そんなにも、そんなにもいい人達なのに、どうしてブッシュに投票するの?」
映画は勝手に歩き出す。芸術は作者が半分、出来上がったあとは鑑賞者が完成させる。
今、この時代にこの映画を掛けようと決めた映画館の、真っ直ぐに問いかけて来る視線を感じるのも、客の勝手な思い込みか。