岩切天平の甍

親愛なる友へ

山中商店

2007年01月19日 | Weblog

  朝、街に散歩に出た。仕事に出る人々でにぎわっている。おばちゃん達が、空き地で大鍋をかき回し、並ぶ屋台で朝ご飯を売っている。労働者らしい男達が食べている、靴磨きの少年、荷物をかかえバスを待つ女達。カメラを見せて、撮ってもいいかとゼスチァーで聞くと、笑顔が帰って来る。失礼ながら、あまり経済的に豊かそうには見えないのだが、みんな明るく暖かい。お金はあるけど、とても保守的なアメリカの地方都市とは対照的に見える。

  国境の橋からすぐの賑やかな通りの角に山中さんの店はあった。
鍋釜から食料品、あらゆる物を扱っているよろずやだ。
ひっきりなしに出入りするお客さんたちで賑わい、山中さんの奥さんは飛ぶように店の中を駆け回って働いている。
となりの店の若者が、お昼のサンドイッチを買いにきた。
山中さんはすぐにパンを切り、ハムを挟んで作ってくれる。
カメラを見て悪いとおもったのか、若者は急いで食べ過ぎて、目を白黒させていた。

  笑っている奥さんに「日本に帰りたいと思うことはありませんか?」ときいてみると、
「いいえ、ここがわたしの家ですから。」と、ゆっくりと微笑んだ。
少し悲しげに見えた。
言葉が途切れて、みんな黙ってしまった。
カメラを止めて振り返ると、横で聞いていたスタッフが、涙を流していた。
彼女らの苦労はアメリカに住む僕とは比べるべくもないだろうけど、故国を遠く生きる者の悲しさに触れたように思った。
午後の日差しがまぶしく差し込む店の中に、表を走りすぎるバイクの音だけが聞こえていた。


最新の画像もっと見る