11/3/04 ボストンにて、
ほとんど徹夜でのケリー陣営の取材を終えて空港へ向かうタクシーの中、
初老の白人ドライバーが、一目でカメラクルーとわかる我々に「選挙はどうだった?」と聞いた。何と答えていいか困って、「あなたはどうでした?」と聞き返してみた。
「ああ、オレはブッシュに入れたから、満足だよ。」
「でも、あの、あなたボストンの人なんでしょ?なんで?」
「オレは保守だからね、いったいどこまでオレ達がホモだのレズだのってのに我慢しなきゃいけないんだ?いったいあのES細胞ってのは何だい、ええ?ES細胞ってえのは? それにテロが恐いからね、サダムみたいなのがいるから。」「でもイラクと9/11は関係ないけど。」「ほっときゃやつらもやったさ。」「でも結局大量破壊兵器も無かったし。」「あったさ、シリアかどっかに移したんだ。やつらが核兵器を持ったらどうするんだ」
僕は黙って聞いていようと思っていたけど、つい我慢できなくなった。「過去、核兵器を使ったことのある国は世界でアメリカだけです。」「ああ、知ってるよ、ヒロシマだろう。」「そして現在も使っているのもアメリカだけです。」「使ってないよ!」「いや、貴方が知らないだけです。」「オレは信じないな。それにこの戦争はイラク人が幸せになるためにやっているんだ。」「いつ彼等は幸せになれるんですか?我々はもう10万人も殺しましたよ、彼等が幸せになる頃にはみんな死んでいますよ。それとも天国で幸せになるんですか?」
「10万人?… そりゃ多いな… ああ、全ては石油さ、わかってるよ、石油がなきゃ誰もあんなとこ行かないさ。世界中の石油が中東からくるんだ、日本だってそうだろう? おんなじこった。」
いやがらせで遠回りされるんじゃないかという僕のケチな心配をよそに、タクシーは空港に着いた。
僕はその朝、新聞の「ブッシュ大統領はモラルで勝利した。」という見出しを見た時、ピンと来なかった。嘘をついて戦争を始め、何万という人を殺し続けているブッシュ氏、環境よりも倫理よりも金を優先させているように思えるブッシュ氏が、モラルという言葉とはおよそ程遠い人間としか思えなかった。
タクシードライバーと話していて、ああ、そうかと思い至った。これがあのモラルってやつか。ホモだのレズだの我慢できねぇか、なるほど、そりゃあそうだ。教会で教えてくれない様なよくわからん理屈で小賢しい東部のインテリなんかにバカにされたくないわな。ディベートなんかでいくら立派に立ち回っても、結局討論の内容に関係なく、あるいは優位に立てば立つほど反感を買いかねない。
イラク戦争においては開戦に賛成したケリー氏も同罪、支持したほとんどのアメリカ国民も同罪であり、それを批判するのは自分達が批判されているのも同じ。解っていても間違いは認めたくない。
なるほど民主主義とはこうしたものか。
この民度にしてこの元首ありとはよく言ったもんだ。
それにしても何故こんな単純なことが解らなかったのか?
ブッシュ憎しの感情が先に立ちすぎて、お互いを理解しようとする努力を怠ったために、こちらの主張もまた理解してもらえなかったということだろうか。
どうもそのへんが敗因だったらしい。